ありますや
□猫
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なるほど。
私は奥に入り、小松さんの言葉に納得した。
カウンターのすぐ側に階段があり、真っ正面に『特別室』とプレートがかけてある部屋があるのだ。
「どうぞ。」
私はおばさんを中にあったソファーに座らせた。
えっと、何か出さなくちゃ……お茶?お茶が必要?
と思った瞬間、お盆にのった緑茶が出てきた。
え?まさか、私が出しちゃった?
恐る恐るおばさんを見てみれば、ぐったりと落ち込んでいて、気づいていないようでホッとした。
「どうぞ。」
「あ、ああ……ありがとう。ピピちゃん……どこに行ってしまったの?お風呂にも入れて、ご飯も良いものあげて、健康診断も毎月欠かさなかったのに……私のどこが悪かったのかしら?」
ああ………シッピーが逃げ出したのが何となくわかった……。
私は、そっと特別室を抜け出した。
表に戻った私は、カウンターの上を見てギョッとした。
「な、なな何で……??」
カウンターの上には、シッピーが二匹いた。
「あぁ、戻ってきたな。」
「え?シッピーが二人!?」
「正確に言うと、こっちはシッピーに似た猫だな。」
小松さんが右側のシッピーを示した。
「よく見てみろ。微妙に違う。」
そう言われ、私はじーっと見つめた。
「………違い、わからないんですけど。」
「なら、大丈夫だろう。あのおばさんを呼んでこい。」
言われるままにおばさんを連れてきた。
おばさんはシッピーに似た猫を見るなり、「ピピちゃん!!」と言い、ギュウッと抱きしめ、頬擦りをした。
「ありがとうございます、ありがとうございます!」
おばさんは涙目になりながら頭を下げた。
カウンターの下を盗み見ると、本物のシッピーがうずくまっていた。
「あの、お代は………」
「……猫のトイレを譲ってくれないか?」
財布を出そうとしていたおばさんは、きょとんとした顔になった。
「あの、お金は……?」
「そんなものは要らん。譲ってくれるな?」
「はぁ、良いですけど……」
「交渉成立だな。トイレはこちらからとりに行く。」
おばさんは、ありがとうございました、と言って店を出ていった。
自分が抱えている猫はシッピーではないということには気づかれなかった。
「今回の対価は猫のトイレですか?」
「ああ、今日からシッピーを飼うことにしたからな。」
「え!?飼うんですか!?」
「猫は嫌いか?」
「全っ然!!」
むしろ、ペットが飼えるってことはとっても嬉しい。
家に余裕がないから……。
小松さんは目を閉じ、集中した。
とたんに、青くて四角い箱が出てきた。
「あたしのトイレだあ!」
シッピーは嬉しそうに跳び跳ねた。
「へぇ、小松さんはこういうこともできるんですね。」
「こういうことも何も、わしはこれしかできん。」
「え?」
「モノを出すのは、作っているということではなく、他の場所から移動させているだけだ。現に、あの身代わりも、どこかで野良猫だった猫だろう。」
と、いうことは………
「あの、さっき、おばさんにお茶を出した時に、自分で淹れなかったんです。
それもやっぱり……」
「どこかの家のお茶が消えたんだろうな。
そういう相談をするということは、信じる気になったのか?自分の能力について。」
「ん〜〜。」
私の中で二つの感情がぶつかりあう。
魔法なんてあるわけがない。
魔法はある。
「ん〜〜〜」
「ま、ゆっくり考えろ。」
「………はい。
それより、何でシッピーの名前がおばさんのと違ったんですか?」
これは、おばさんが店に入ってきた時から気になっていたことだ。
「ああ、それは、シッピーは、あたしを産んだ母さんが付けた名前で、ピピは、さっきの元飼い主が付けた名前なの。」
「猫って、二つも名前を持つものなの?」
「猫に限らず、人間に飼われている動物は余程のことがない限り、皆二つは持ってるわ。」
「へぇ〜。で、何でシッピーを飼うことになったんですか?」