ありますや
□就職
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「まず一つ聞かせてくれ。
お前さんは、この店についてどこまで知っている?」
私は少し質問の内容に面食らった。
「いえ、全く知りません。」
「そうか、では、全てを話さないとな。」
そうして、おじいさんが話したのは、とても信じられないようなことだった。
「この店は『ありますや』という。わしが立ち上げた店だ。
ここの店は名前の通り、何でもそろう。
わしが他の場所からその欲しいモノを持ってくることができるからだ。」
「え!?わざわざ探しに行くんですか!?」
「探し、はする。行き、はしない。
つまり、物体そのものを空間を通じて移動させることができるということだ。」
だんだん頭の上に"?"がたくさん飛び交い始めた。
「一般に言ってしまえば、超能力、といったところか。」
それでなんとなく理解した。
が、それは理解しただけで、信じた、という訳ではない。
おじいさんがそんな私の気持ちを読み取ったかのように言った。
「ま、信じるも信じないもお前さんの自由だが、いずれ強制的に信じなくてはならない状況になるだろう。なんと言ったって、お前さんも同じ能力者なのだから。」
「え!?私が!?」
「そうだ。さっきの張り紙が証拠だ。
わしは、あの張り紙を出していないし、作ってもいない。つまり、お前さんが出したということだ。」
「はぁ……」
自分が超能力者だということはとりあえず置いておこう。
今は何よりも重大な問題がある。
「あの、一つ質問して良いですか?」
「何だ。」
「結局、私はここで働いて良いんですか?」
「もちろんだ。後継者になるかもしれない者を易々と手放すはずがない。」
「後継者!?」
「わしと同じ能力を持っているんだ。当たり前だろう。」
「そ、そんな……!あの、やっぱり辞めます。」
「駄目だ。さて、早速明日から来てもらおうか。主に店の整理をやってもらうとするか。それと………」
「それと?」
私は、無責任なことに、明日仕事に来なければ良いや、と思っていた。
「一生懸命仕事をすれば、それに見合うだけの給料を出そう。」
「はい!よろしくお願いします!」
私は背筋を伸ばしてお辞儀した。
我ながら現金だな、と思った。
「あ、あと、」
まだ何か?
「わしの名前は、小松玄二だ。」
カランカラン
私はもう一度頭を下げると、ありますやを出た。
こうして、私の不思議な仕事生活が始まったのだった。