本3

□双人の村
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石造りの祭壇の上。

一人の少女がひざまづいていた。

少女はやや短めの髪を少し前に垂らし、白く、清められているワンピース型の服を着、静かに目を閉じていた。

祭壇の周りを、この村の民が取り囲み、少女の隣には、村長と思われる老人が立っていた。

「準備はいいかの?」

「はい。」

傍らの老人が尋ね、少女は目を開けることなく答えた。

群衆の中から、すすり泣く声が聞こえてきた。

「では、始めよう。


生け贄の儀式を


。」

村長が刀を抜いた。










ここは、『双人の村』

今、まさに生け贄の儀式が行われようとしているところだ。

なぜ、まだ若い少女を生け贄にささげることになったのか。

それは、遥か千年の歴史を遡ることになる。



千年前、ここがまだ開拓されていない荒野だったころ、双子の兄妹が着た。

兄の名を、シルド。妹の名を、シルヤ、といった。

二人は、治安の最悪な故郷に愛想を尽かし、亡命してきた剣士だった。

そして、荒野を当てもなくさ迷っているうちに、この地にたどり着いたのだった。

二人は、川を見つけた。

土が、農業に向いているかもしれないと思った。

そこで、ここに、小さな国を造ることに決めた。

二人はまず、持ってきた簡易テントを家代わりにし、畑作りから始めた。

しかし、シルドもシルヤも、元はといえば剣士。畑のことはてんでお手上げだ。

そこで、彼らは、信頼のおける人を荒野に呼んだ。
その人は、また人を呼んだ。

こうして、人がだんだんと集まってきた。

いつの間にか、簡易テントは正式に彼らの家になった。

いつの間にか、人々は結束を堅め、荒野は村となった。

年を経るにつれ、作物も上手く育つようになり、シルドとシルヤは共同で村を治めるようになった。

ある日のこと、故郷から多くの人が移住してきた。

何事かと思い、話を聞くと、故郷は今、隣国から攻められているのだが、王もまともな人間ではなく、国を捨てて出ていってしまい、今や有能な指揮官もおらず、わずかに残った兵で防戦をしているとのことだった。

何のことはない。それならさっさと降参してしまえばいいと思うかもしれないが、あいにく、隣国とは宗教がまるっきり違うので、そう易々とその傘下に入ることはできないのだ。

妹のシルヤは言った。

『故郷を助けに行こう。』

兄のシルドは言った。

『このまま平穏な日々を過ごそう。』

シルヤは、一緒に行こうと言った。が、シルドはここに残ると言った。

シルヤは兄を説得したが、とうとう一緒に行くとは言わなかった。

『故郷が終われば次はこの村に来るかもしれないぞ。』
と、シルヤは言った。

『ここで死人が出なければそれでいいさ。』
と、シルドは言った。

シルヤは、兄を、薄情者、と罵ったが、シルドは考えを変えなかった。

ついに、シルヤは独りで村を出ていった。



それから数ヶ月後。

シルヤが村に戻ってきた。

隣国の将軍となって。

結局、故郷は隣国の手に落ちてしまったのだ。

シルヤは、現地につき、これは圧倒的に故郷が不利だと悟ると、呆気なく敵に寝返ってしまったのだ。

これには流石にシルドも怒った。

『この村から出ていけ。二度と入ってくるな。』

シルドは妹を追い返そうとした。

シルヤはこれに逆上した。

『兄さんは私が帰ってきて嬉しくないのですか!?』

二人の間の亀裂は、大きな溝となった。

『決闘だ!わからず屋の兄さんなんか死んでしまえばいい!』

『ああ、良いだろう。お前の目を覚まさせてやろう。』

こうして、村の広場で決闘が始まった。

村人や、兵士たちがハラハラしながら見守るなか、二人は大健闘をした。

が、いくら双子とは言えども、シルドの腕は確かに鈍っていた。

とうとう、シルヤの剣が、シルドの胸を貫いた。

『どうだ、兄さん。私の方が正しかっただろう。』

シルヤは、力なく横たわるシルドを見下ろしながら言った。

シルドは、力尽きる前にこう言った。

『隣国の王がこの地の村人を奴隷とするならば、隣国は滅びる。この村で生まれた双子の男女の組は、清楚なる女子を花の盛りに捧げなければ、不況が訪れるだろう。』

それは、呪いだった。

それだけ言い終えると、シルドは事切れた。

シルヤは、シルドを殺してしまったことを後悔した。

が、呪いのことは気にしなかった。

ただの遺言だろうと思っていた。
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