本3
□鳥籠の中の姫君
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来訪
そびえたつ城壁。
出入りする人でごった返す、壮大な門。
空はこれでもかとばかりに晴れ上がり、人々も活気に満ちていた。
「やっと着いたか…」
大都市エムロンに、1人の男が到着した。
短い黒髪に、漆黒の双眼を持った男は興味深そうに周りを見回した。
黒くて長いローブをはおっているせいで、全身が黒ずくめとなっているが、白い肌と綺麗な顔だちをしていたため、あらゆる視線を集めていた。
「そこの旅人の方、通行証はお持ちか。」
1人の憲兵が男に近寄ってきた。
「ああ、持っていますよ。はい、これ。」
男は白い手をかざした。
男性にしては長く綺麗な指には、赤々と光る宝石がはめられた指輪があった。
宝石の名はガルム。
7色ある魔鉱石の中の1つで、焔の力を秘めている。
魔鉱石を持てるのは、魔法使いのみであり、また、あらゆる国への出入りを許されていた。
憲兵は、検閲用の紫の魔鉱石をかざした。
紫は闇の力を宿した石。
たとえ力は違えども、魔力を持った石どうしであれば反応する。
憲兵の手の魔鉱石が光った。
それに応えるかのようにまた、男の指輪も光った。
「本物ですな。失礼いたしました、魔法使い様。どうぞお入りください。」
「ありがとう。」
旅人は、そんなことはもう慣れっこかのように微笑んだ。
その微笑みに、側を通った女性が見とれてしまうのも、慣れっこだった。
その女性の後ろを、一台の幌馬車が通り過ぎようとしていた。
別の国へ商売しに行くのか、検閲も済ませて今にも門のを出ようとしていた。
男は幌馬車をじっと見た。
そして、やおら急ぎ足で御者のところへ行って呼び止めた。
「すみません。ちょっと中を調べさせてもらいますよ。」
「なんだよ、てめぇ。俺は急いでんだよ。」
御者が喧嘩腰なのにも構わず、俺は幌馬車に乗り込んだ。
慌てて憲兵がかけつけ、御者をなだめている間、男は品々の箱を1つ1つ調べていた。
反物屋らしく、箱はどれもきらびやかな布や服でいっぱいだった。
その中の1つの箱で男は手を止めた。
一番角に収まっていた、大きめの箱。
男はしばらくそれを見つめていたが、やがてそっとフタを開いた。