短編
□蝋燭の街
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灯台もと暗しとはよく言ったもので、いくつものカップルが、蝋燭の下で抱き合っていました。
こっちの蝋燭で。
あっちの蝋燭で。
オレンジ色の炎が街を淡く照らす中、カップルたちは影に隠れて、愛を語り合うのでした。
その蝋燭の街を、駆け抜ける影が1つ。
オレンジ色のレンガを踏みながら、恋人との約束を守るため、ひたすら走ります。
大蝋燭の灯る頃に。
そうはにかみながら交わした約束の時間はもうすぐで、1人の影が幾重にも重なって、ひたすら走ります。
それは急く足音。
それは喜びの足音。
次のパン屋を曲がれば、大蝋燭はもうすぐそこにありました。
立ち止まった影は、優しい光に揺らめきます。
ゆらゆら
ゆらゆら
大蝋燭の下ではすでに何人か待ち合わせの人がいました。
ゆらゆら
ゆらゆら
恋人を探して
ゆらゆら
ゆらゆら
大蝋燭に炎が灯りました。
一度に暗くなる、灯台の下。
待ち人たちは、いっせいに自分の蝋燭に火を灯します。
赤
黄色
青
黄緑
ピンク
待ち人たちの小さな影が、小さく揺れます。
ゆらゆら
走ってきた影は、その中から恋人を見つけ出しました。
手に手を取り合い、お互いの視線を絡ませて、微笑み合いました。
そして恋人は、蝋燭の炎を消しました。