ありますや

□自己
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ここはとある異界――


「やっべぇな、さすがに。」

「あぁ。」

風来と龍希は迫り来る追っ手から必死に逃げていた。

ヒュウン ヒュンヒュン

矢が風来の赤毛をかすった。

「げっ。弓矢なんてありかよ。」

そうこうしているうちに、二人は開けた場所に来てしまった。
正面には追っ手。
背後は崖。
崖の下にはこんもりとした森が広がっていた。

「そこまでだ!無断で書庫に入った盗っ人め!」

一斉に矢がこちらを向く。

「どーする?大人しく捕まっとく?それとも……」

風来は槍で地面を軽く叩いた。

「いや、風に乗って、いったん森に降りよう。」

龍希はじりじりと後ろに下がると、一思いに崖から飛んだ。
続いて風来も。

すかさず、術でおこした風が二人を包む。

上から矢の雨が降り注ぐ。

ザッ

「痛っ。」

「龍希!!」

そのうちの一本が龍希の肩に刺さった。

「大丈夫だ。まだ一本だけだ。」

が、大丈夫ではなかった。
森に降りると、伏兵が待ち構えていたのだ。

すぐ二人は戦う羽目になった。

が、さすがに何時間も逃げ回ったため、疲労がたまっていた。
龍希も肩の傷のせいで思うように動けない。

鎧も着ていない二人はあっという間に真っ赤に染まり、特に龍希はお腹を押さえていた。

「龍希!?」

「よそ見してんな!大丈夫だ!」

兵士のスキをついて風来は駆け寄った。

かなりひどい出血だった。

二人は剣先をよけながら話し合った。

「なぁ、この世界は諦めよう。」

「でも、この世界に確かにあるんだ。希来を生き返らせる方法が……」

「それだって、お前が死んだら意味ねぇだろ。」

「一度ありますやに戻ったら、また同じ世界に行けるとは限らないんだぞ。
それに、この状況で魔法具は出せそうにない……痛っタタタタ」

龍希はその場にうずくまってしまった。

「おい!」

脂汗をうかべ、息をするのもやっと、という状態に陥っていた。
兵士は一度武器をひき、こちらの出方を見守った。

やっぱり、戻らなくちゃならねぇ。

風来はそう決心した。
が、ここでポーチを漁るなどと怪しい行動をしたらいっきに串刺しにされるかもしれない


くっそー、時間が止まればいいのに。

本気でそう願った。

真面目に術を習っておかなかったことを、後悔した。

時間よ!止まれ!
止まれとまれとまれとまれとまれとまれとまれとまれとまれとまれとまれとまれと「はい、止めました。」


「は!?」

驚いて声がした方を振り向くと、ふちなし丸眼鏡に白衣を着た中年の男性がいた。

空間を切り裂いて。

「今、なんて?」

「うん、だから、時間。止めてあげたよ。」

ハッとして見れば、兵士はみな固まったまま動かない。瞬きもしない。
木も揺れない。
音もしない。
何もかも、止まった。
龍希の出血も止まった。
動いているのは、風来とこの怪しい男だけ。

「……何者だ、てめぇ。」

「助けてあげたのに〜。ひどいなぁ、その言い方。」

「……ありがとうございました。」

風来はポーチを探ってお目当てのモノを取り出すと、龍希を抱えてその場を離れようとした。

がモノは発動しない。
振っても叩いても、この世界から移動しない。

「なんで…?」

「僕が時間を止めちゃってるからだと思うなぁ。」

風来はギッと男を睨み付けた。

「何が目的だ。」

「なぁに。ただ、君たちの手伝いをしたいだけさ。」

「俺たちの?」

「そ。人を生き返らせる方法、知ってるよ。」

「何っ!?」

「まぁ、今はまだ実験してないから確実とは言えないけど。」

「それを、俺たちで試そうってのか。」

「そーゆーこと。ま、正確にはもう一人、必要なんだけどね。
とりあえず、今はそっちの子、ヤバそうだから、詳しい話はまた後でね。
バイバイ♪」

「おい!ちょっ………」

男はスルリと空間に消えた。
と同時に、止まっていた時間が動き出した。

風来は慌てて、モノをつかみ直すと、次元移動した。
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