ありますや

□新発見
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梅雨もあけ、だんだん日差しが強くなってきた。

「ねー麻美。ちょっとここのモノ、どかして。」

「はいはい。」

シッピーに言われるままに、ドアの近くに積んでおいた陶器の山を、何とかどかした。

全く、この陶器も早く何とかしないと、端が欠けてしまう。

小松さんは、自分で商品は大切にしろって言ったくせに、私が来るまで店の中はゴッチャゴチャにしていたんだから。

今もそ知らぬ顔で、私だけ働かせておいて、自分はお金の勘定をしている。

いつものことだけど。

「おい。」

「何ですか?」

片付ける手を休めずに返事をした。

いっくら片付けても、全然商品は減らない。
むしろ、増え続けている。

歩き売りでもした方が良いんじゃないかしら。

「金の額が合わねぇんだ。何か使ったか?」

「この前、お昼の材料が足らなかったので、使って足したんですけど、足りませんでした?」

「あぁ、計算ミスだった。」

とりあえず、ホッとした。

「あっ、また金魚が……」

シッピーが寝言を言った。

どんな夢を見てるんだろう。

「ねぇ、そんなドアの近くにいたら、お客さんが来たときに踏まれちゃうわよ。」

「ん〜んだいじょ〜ぶ………あっ今度はワカサギ…」

夢と現実を行ったり来たりしている。

と、噂をすればじゃないけど、お店のベルが鳴った。

「「じーさん!「ギャーーッ!!」

ちゃんと注意したのに。

シッピーは、風来さんに思いっきりシッポを踏まれた。

「ちょっと!何すんのよ!」

シッピーが盛んに威嚇をしても、風来さんも龍希さんも見向きもせずに小松さんの所に行った。

そんなに重要な用事なのかな?
つられて私も側に寄った。

「じーさん、これを見てくれ。」

龍希さんが、例の何でも入るポーチから、すごく古い本を取り出した。
昔の日本の書物みたいに、糸で一枚一枚つないでいる。
そう言えば、今日の二人の服装も、甚平みたいな服装で、江戸を思わせる。

『黄泉からの生還』

表紙には、そう書いてあった。

「ほぉ、見つけたのか。」

「まーね。でも、見てくれよ、これ。」

風来さんが、パラパラと本をめくった。

あららー

見事に本は虫食いだらけだった。

「これ、元に戻せねぇか?」

「……対価が大きすぎる。」

「それでもいい!俺達は、あいつが戻ってくれさえすれば………。」

そこで龍希さんは言葉を止めた。
ちら、と私の方を見る。

え?私、いない方が良いかな?

小松さんがため息をつきつつ言った。

「この本を元に戻すっていうことは、過去のある時点からこの本を持ってくるっていうことだ。」

「え!?そんなことできるんですか!?」

時間を遡って物体を移動させる……

「ああ、できなくはない。
が、それは時の意思に反する。
この場合だと、この虫に食われた本を対価に、完全な本をこちらに持ってくる。
そうすると、矛盾が生じる。
なぜ、過去でボロボロになった本が、ここに元の姿である?
それに、今の時代にいたるまでにこの本を利用した人がいないとは限らない。
そうすると、

時空に歪みが生じる。

世界の崩壊に手を貸してでも、お前達はあいつを生き返らせたいか?」

「……くそっ。」

ガンッ

風来さんがカウンターを思いっきり叩いた。

時空の歪み

生き返らせる

この人たちが欲しいものって、何なのだろう。

本の中がボロボロになってなければ良かったのに。
そうすれば、この二人の願いは叶ったのに。

この二人の願いを知ることができたのに。

私は眼を閉じて考える。

元々何が書かれていたのだろう。

『黄泉からの生還』なのだから、死者にまつわることだよね。

三途の川とか?

人間が死んだらどこに行くとか?

本の素材は何だろう。

相当古いから、わら半紙に近いものかな。
ちょっと色あせて黄色がかってて……あ、もちろん文字はきっと墨で書かれてるよね。

って、私、何考えてるんだろう。

ハッとして目を開けた。




龍希は、自分の隣で力が動くのを感じた。

隣にいるのは、ここの正社員のはずだ。

気になってフッと見れば、麻美がゆっくりと倒れそうになっていた。

「危ない!」

慌てて抱き止めると、麻美はがっくりと倒れ込んだ。

「麻美ちゃん!?」

「どうした。」

「や、急に倒れて……」

フッとあいつの死んだ顔と重なってしまった。
まさか、そんなはずはない。

龍希はちら、と風来を見た。

心配そうな顔の中に、動揺がみられる。
それを感じ取って、自分と同じことを考えていると思った。

「あーこりゃ、魂がいっちまったな。」

「「逝った!?」」

風来は苦笑いした。

どうしても、こういう言葉に敏感になってしまう。

「違う。魂が身体から離れてうろついてるってことだ。死んじゃいない。」

どことなく、ホッとしたような空気が流れた。

「とにかく、ソファーにでも寝かせといてやれ。」

龍希がそのまま、麻美を抱き抱え、寝かせた。

「後は、帰ってくるのを待つしかねぇな。」

小松の言葉に、二人とも大人しく頷いた。
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