ありますや

□猫
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ありますやに就職して一週間たった。

お客様はなかなか見えない。

小松さんは暇そうにカウンターで眠っている。

この分じゃあ、今週は来ないかもしれない。

私はかろうじて壊れていない棚にモノを置きながら考えていた。

と、その矢先、店のドアが開いた。

カランカラン

「いらっしゃ…………ん?」

ドアが開いた。

けれど、誰もいない。

「え……?まさか、透明人間!?」

私が思わずそうつぶやいた時、下の方から可愛らしい声がした。

「あの……すいません。こっちこっち。」

「え!?」

そして、下を見てみれば、そこにはシマシマ模様のオレンジ色の子猫がいた。

「猫?まさかね、猫がしゃべるわけないよね。」

「失礼ね。猫だってしゃべるわよ。」

いけない。どうやら熱があるみたい。

「ところで、ここの店主は?」

でも、幻覚にしてはハッキリしすぎてるなぁ……そっか、これは夢なんだ。
じゃあ、猫がしゃべっててもおかしくないか。

「しばらくお待ちください。」

これを夢だと認識した私は、小松さんを起こした。

「小松さん、お客様ですよ。」

眠りが浅かったらしく、意外と早く起きた。

「そうか………こちらか?」

「あ、はい。」

いつの間にか、子猫はカウンターの上に乗っていた。

「初めまして。シッピーと申します。」

「何が欲しいんだ?」

小松さんは子猫がしゃべっていることに驚かずに対応した。

あぁ、早く夢、覚めないかなぁ。

「家が欲しいんです。」

「家!?」

私はびっくりして、手元が狂い、棚に乗せようとしていた本を落とした。

ゴン

頭に直撃し、凄まじい痛みが頭を襲う。

………ん?痛み?

ここは夢だよねぇ?

「あの、小松さん。」

「商談中だ。」

「あ、お先にどうぞ。」

私は、シッピーと名乗った子猫をちらりと見て言った。

「これは夢ですか?」

「熱でもあるのか?」

「………現実ですか………」

今さらだけど、就職先を間違えたと思う。

「話の途中で悪かった。で、なぜお前さんは家が欲しいんだ?」

「それは………」

シッピーが言いかけた時、お店のドアが開いた。

入ってきたのは、ツンツンとした派手なインテリなおばさんだった。

シッピーは、カウンターの下にサッと隠れた。

「あなたなの?探し物を探してくれるというのは。」

おばさんはずけずけとカウンターの前まで来た。

「そうだ。」

「お願い!うちのピピちゃんを探してほしいの!
昨日お散歩に行ってから帰ってこなくて、心配で心配で………」

おばさんは目をうるうるさせながら頼みこんだ。

「わかった。その外見を教えてくれ。」

「オレンジ色で、縦にシマシマ模様がはいってる、超カワイイ子猫なの!」

え、それって………

小松さんを見れば、薄々勘づいてるみたい。

「とりあえず、奥でお待ちください。ほれ、案内しろ。」

「え?どこにですか?」

実をいうと、店の奥には入ったことがない。

「行けばわかる。」

とにかく、私はおばさんを立たせて、カウンターの脇から奥に行った。
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