本3
□光と闇の恋物語
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バイクの轟音が消え、普通に自動車が走る音だけが聞こえるようになって、ようやくティンは目を開けた。
「………!!!」
「ようやく気づいたか。」
見覚えのある悪魔が目の前で盛大にため息をついた。
「わわわ、すみませんっ。」
顔を赤くして慌てて離れたら、まだ震えが収まっていなくて翼が変にはばたき、風に体をもっていかれそうになった。
「仕方ない奴だな。まだいいから、ここにいろ。」
寸でのところで悪魔に手をつかまれ、再び胸に引き寄せられた。
「す、すみません……」
ティンは黒い腕に抱えられながら、少しずつ心が落ち着いてくるのを感じた。
ジャイティはそんな天使を見ながら質問をした。
「お前、バイク事故で死んだのか?」
ティンはこっくりとうなずいた。
「だから、交通量があって車の音がすごいところに降りられないし、バイクの音を聞いただけで失神しそうになると。」
「失神なんてしてません!」
「しかけただろ。お前、ほんっとうに駄目天使だな。」
ティンは言葉に詰まった。
多少なりとも自覚はあるのだ。このままでは駄目だと。
これでは、自分が天使になって本当にやりたいことができないと。
「お前、務めをちゃんと果たせてるのか?」
「や、やってますよ。」
「どうせ公園とかでちっぽけな虫の魂とか迎えに行ってるだけだろ。」
「………」
「図星かよ…」
「1週間は1日1つ魂を迎えに行くと、ミクリア様と約束したんです。けれど、時間ぎりぎりまで粘っても降りられなくって、仕方なくです。
でもそれを4日続けていたら、意味がないと呆れられてしまって……1日2つに増やされてしまいました……」
2人分のため息が空に散った。
「他のやつらは手伝わないのか。」
「みなさん自分のお仕事がありますし、これはわたしが何とかしないといけないので。」
「で、今日はもう昼になるが、収穫は?」
「まだ、です。」
「だろうな。」
完全に見下された気がして、ティンは下唇を噛んだ。
「俺が手伝ってやろうか?」
パッと悪魔を見上げた。
その顔は相変わらず呆れ顔だったが、目は本気のようだった。
「なん、で?」
「いじめのつもりで。」
「断ります。」
「いや、普通に冗談だ。
こないだロケットをあずかってくれていたお礼だと思っとけ。」
「え、でも、あれは、わたしが持ち帰ってしまったせいで余計なご心配を」
「よく考えれば、そのまま放置されていたら、誰か知らないイキモノに盗られてたかもしれないだろ。光り物だからな。」
ジャイティはロケットにそっと手をあてた。
「だからさっさと行くぞ。」
「は、はいっ」
ティンは不思議な展開に首をかしげながらも悪魔の後を追った。