本3
□光と闇の恋物語
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試練
ティンは天界へ着くと魂を伴って大天使のミクリアの元へ駆けていった。
「ミクリア様ー!」
「ティン。」
柔らかな金髪に深い緑の瞳をたたえた大天使は優しくティンを迎えた。
「ただいま戻りました。」
「おかえりなさい。
まあまあ、やっと地上へ降りられたのですね。」
ミクリアはティンが連れてきた魂を見て微笑んだが、ティンはバツが悪そうな顔になった。
「えっと、それが……」
そして、先ほどあった出来事を話した。
「まあ。悪魔が。どこも怪我はないのですね?」
「はい。むしろ助けてもらったというか……あ、それから、こんな物を拾いました。」
ティンはポケットからロケットを出した。
「多分さっきの悪魔さんのものだと思うのですが、名前を聞くのを忘れてしまって。
このロケットけっこう古いのできっと大事な物なのでしょうけど、どうしたら良いでしょう?」
ミクリアはしばらく考えていたが、やがて曖昧に笑った。
「多分、そのまま落としておいた方が良かったのだと思いますよ。」
「えっ」
「現世から持ち込まれたものでも、一回天使や悪魔の物になってしまえば普通生き物には見えませんから、そのままその場所に置いておけば探しに来たんじゃないかしら。」
ティンは慌てた。
「ど、ど、どうしましょう。わたし、すぐにこれを」
「その悪魔は毎日同じ場所を通っていたのでしょう?
でしたら、また明日行けば会えますよ。」
「あ、そうか。」
「それより、その魂をカミサマの元へ連れていってあげなさい。」
「はい。」
ティンがぱたぱたと駆けていくのを、ミクリアはゆっくりと後を追った。
カミサマのいる所へ向かう場所には、もうすでにたくさんの列ができていた。
「うわぁ、今日もこんなに……」
天界には『世界中』から死んだ生き物の魂が集まってくる。
それを毎日毎日カミサマはそれぞれの希望を聞いて振り分けていく。
このまま天界で暮らすか。
現世に生まれ変わるか。
天使になるか。
天使になるかどうかは、とりあえず天界に住むと決めておけば後で大天使に言って学校の門を開くことができる。
迷うのは生まれ変わるかどうかだ。
次に何の生き物に、どの世界に生まれ変わるのかは生を司るカミサマの裁量に任されているので、躊躇してしまう魂がたくさんいて、いつも列はなかなか進まずにいた。
ティンは連れてきた魂に今後の説明をして列に並ばせると、ミクリアの元へ戻った。
「終わりました。」
「ご苦労様。では、試験の結果を発表しましょうか。」
ティンはつばを飲み込んだ。
「結果は……合格です。」
ティンは喜びのあまり歓声をあげそうになったが、ミクリアの「ただし」という言葉で再び固まった。
「しばらく貴女にはノルマを課します。」
「ノ、ノルマ?」
ティンは目を見開いた。
天使には地域が振り分けられていて、基本的にはその地域の魂を迎えにいったり幸せが公平に行き渡るようにしていれば仕事の量に制限はないはずだった。
「1週間、1日に1つは魂を迎えに行きなさい。」
「ええっ」
「切羽詰まれば今度こそ自力で地上に降りることができるでしょう。これは貴女のためなのですよ。
あ、それなら1日2つの方がいいかしら。」
「そ、そんなに魂が狩られても困りますよ。」
「それもそうね。では、1日1つ。できなければ天使の資格は取り上げです。」
ミクリアの天使の笑顔を前に、ティンはため息をつきながらうなずいた。
「ティン。貴女が亡くなった時の事情も存じていますが、カミサマに願い出る時にすでに天使になると決めていたのでしょう?」
「はい。どうしても、やりたいことがあるので。」
「でしたら、頑張りなさい。」
「はいっ。」
今度は力強くうなずいた。