本3
□光と闇の恋物語
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心地よい夢を見ていた。
自分は天使になって、周囲から尊敬されていた。
とても楽しい気分だった。
そして
視界にはあの人がいた。
天使はそれだけで何倍もの喜びを感じた。
すぐさま駆け寄ろうとしたが、足が動かない。
背中の翼も羽ばたこうとしない。
あの人はどんどん遠ざかっていく。
「待って!」
天使は叫んだ。
「待ってってば!」
「いい加減目を覚ませ!」
ゴン、という頭の鈍い衝撃に驚いて目を開けると、真っ先に黒い顔が飛び込んできた。
「きゃあああっ」
「命の恩人を一目見て悲鳴をあげるとは、いい根性してるな。
まあ、ことの発端は俺だから仕方ないが……とりあえずその頭をどけろ。」
天使……もとい、ティンはやっと自分の状態を理解した。
「すすすすみません!重かったですよね!?あれ?でも、わたし何であなたに膝枕してもらっていたのかしら。」
そして、はたかれた頭をさすりながら辺りを見回してさらに驚いた。
別に何の変わりもない公園のベンチに2人はいたが、ティンは目を見開いて口をパクパクさせていた。
「……今度はどうした。」
ジャイティは仕方なくティンに声をかけた。
「わ、わたし……地上に降りてる……」
「ああ。だって俺が落としたからな。」
「えぇっ!」
そう言いながら、ティンは少しずつ先ほど起こったことを思い出していた。
まず、自分は試験に合格するために地上に降りようとしていた。
そうしたら急に体が重くなったので羽をたくさん動かして落ちないようにしていた。
しかし今度は羽まで動かなくなってしまい、次第に近づいてくる地上が怖くて気絶してしまったのだ。
そして今、隣には悪魔がいる。
ということは……
「俺がお前に術をかけた。
まさか気絶してそのまま落っこちていくとは思わなかったんだ。
悪かったな。」
と、全く悪びれていないような口調で話すジャイティに、ティンは次第に腹が立ってきた。
「もしそのまま地面に衝突してしまったらどうするつもりだったんですか!?
わたしたちは仮にも『イキモノ』なんですから、死んじゃうんですよ!?」
「うるさいな。地上に降りたかったんだろ?丁度いいじゃないか。
だいたい、12日間も空中でバタバタしてるやつも悪い。」
ティンは言葉につまった。
「ま、まさか、試験が始まってからずっと見て…」
「違う。見てたのは1週間だけだ。あとの事情はあそこの死神から聞いた。」
ジャイティが示した方を見ると、黒いフードをまとった白い顔がこちらを見つめていた。
「そういうことだから、俺はもう帰る。」
「えっ!?」
ティンが驚いているのにも構わずに、悪魔は地面を切り開くと自分の世界へ帰ってしまった。
呆然としていたら、後ろから肩を叩かれてまた飛び上がった。
「きゃあっ」
「なに悲鳴あげてるんですか。さっさとこの魂をつれて帰ってくださいよ。」
死神が少し苛立った様子でティンを見ていた。
「ああ……ご迷惑をおかけして本当に申し訳ありませんでした。」
「全くだよ。まあ…この魂をつれて帰っても、あなたが今後ちゃんと務めを果たせるのか疑問だけどね。
結局自分で降りたんじゃなくて、降ろされたっていうのが正しいみたいだし。」
「あ………」
「ま、合格でもやり直しでもせいぜい頑張るんだね。
とりあえず、また僕にお鉢が回ってこないようにだけ祈ってるよ。」
そして死神は別の場所へ魂を刈りに去ってしまった。
ティンは上空に舞い上がろうとした。
その時、足下に一瞬光るものを見つけた。
拾ってみると、それはロケットで、力を使って持ち主を探してみると悪魔の気配がした。
「まさか……あの人のもの?」
しかし、名前がわからないため呼び出すことはおろか、魔界は広いので探すことも困難だ。
「どうしよう……とりあえず、預かっていればいいかしら。」
ティンは様々なできごとがいっぺんに起こったため、多少混乱しつつも魂をつれて天界に帰った。