本2(満)
□続#自転車第八話
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♭早耶
本番当日。
気持ちよく目覚めた私はいつも通り恰次と待ち合わせをして大学へ行った。
朝会って驚いたのは、お互いの服装。
恰次は黒いネックに薄手のをはおって、やや黒いズボンで、黒黒してるけれど、私は白がベース。
見事に反対色。
「まぁ、うまくいったもんだな。」
「だね。」
私たちの出番は真ん中よりちょっと遅いくらいだったので、いろんな人の演奏を聴けた。
神にいのバイオリンを注意して聴いたのは久しぶりだった。
意外と上手くて軽く尊敬した、と言ったら怒られるだろうか。
他の先輩の方々もすごく上手で、プレッシャーが少しずつ積み重なってきた。
自分の出番が近づくにつれて本格的に緊張したので、早めに抜けて化粧室に行った。
そしたら、高山さんと伊井さんがメイクを直していた。
「あら、早耶ちゃんもお化粧?」
伊井さんが冗談混じりの声で言ったけれど、私はそんな心境じゃない。
「ちょっと緊張してきちゃって……」
高山さんがじっと私を見つめた。
「私の次だよね?」
「はい。」
何だろう。
「よし、じゃあまだ時間ある。ちょっとここに来て。
今ちょうど先輩の髪型終わったとこだから。」
「え?」
言われるがままに座って、なされるがままにしていたら、髪を軽くクルクルされてしまった。
「うわ、えっえっ」
「あー、やっぱりこうした方が可愛いわー。」
高山さんはご満悦っぽい。
伊井さんも笑いながらうなずいてる。
「うん、似合ってる。これならサークル中の男全部射止められるわ。」
うわぁ…髪くるくるなんて幼稚園とか小学生のころ母に面白がってやられた以来だよ。
まぁ、今日は大人っぽい感じにしてもらえたけど……面白がられてるのは一緒か。
「なんか落ち着かないですね、違う髪型するって。」
恐る恐るふんわりカールされた髪を触ってみた。
「せっかく舞台に立つんだから、これくらいはしなきゃね。」
高山さんは自分の髪も巻き付け始めた。
すごい、手慣れてる。
「大沢が見とれて演奏できないかもね。」
伊井さんがからかうので思わず赤くなってしまった。
「純粋ねえ。」
「もー、一応緊張してるんですから、からかわないでください。」
「あはは。私だって緊張してるんだもの。からかわせてよ。」
「え、先輩いつも通りに見えますよ。」
「これからはポーカーフェイスとお呼び。」
私はようやく笑顔になれた。
「じゃ、私戻ります。
ありがとうございました。」
「お互い頑張ろうね。」
「はい。」
軽く頭を下げると、恰次がどんな反応をしてくれるのか胸を弾ませた。
早耶が立ち去ってから、伊井はおもむろに高山の肩を抱いて言った。
「あなたも大人になったわねぇ。」
「え?何がですか?」
「元恋敵におしゃれさせるなんてさ。
しかも、普段もけっこう仲良さげじゃない。」
「だって、こんな程度の女の子に負けたんだって思われたくないじゃないですか。
それに、本当に、早耶ちゃんが妹みたいに可愛くなってきたんです。」
「あぁ、本当に成長したわねぇ。」
伊井が大げさに涙を拭くふりをするので、高山は笑って言った。
「じゃあ、今度何かおごってくださいよ。」
「え?それとこれは別でしょ?」
朗らかな笑いが響いた。