本2(満)
□続#自転車第五話
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家に帰ってすぐタンスの中身をひっくりかえした。
明日は恰次さんと楽譜を探しに行くんだ。
つまり……
初デート。
「きゃーっ。」
急にテンションが上がって、飛び跳ねた。
どーしよ、どーしよ。
あれも可愛いけど、こっちも着たいから……
あ〜でもでも、これ着たら喜んでくれるかな……
残念なことに等身大の鏡がないので、窓にとっかえひっかえ服を映してみた。
やばい、楽しみすぎる。
「おーい、何やってんだよ、うるせぇぞ。」
ドアの向こうから神にいの声がした。
「しょーがないじゃん、服が決まらないんだもん。」
そう言いつつ、ドアを開けてあげたら、顔をしかめられた。
「うわ、こんなに部屋が散らかってる所初めて見た。」
「ね、ね、恰次さんはどういうのが好みかな?」
「んな人の好みなんて知るかよ。」
「う゛ー。」
神にいも巻き込んでやっと決まったのは、
運動靴にも似合うように、ジーンズとチュニックを着ることにした。
「あ゛ー、疲れた。女子っていつもこんなのかよ。」
「いつもっていうか、明日は特別じゃん。」
「恰次のやつにメールしとこ。」
「何て?」
「服選びに二時間も付き合わされたって。」
「しないでよ〜。」
「さってと、晩飯晩飯。」
「あっ、逃げた。」
ご飯を食べている間も、にやけが止まらなかった。
「早耶、今日は機嫌がいいな。何かあったのか?」
私は慌てて何でもないと首を振った。
神にいが目配せしてきたけど、知らんふりをしておく。
父がまた聞いた。
「今日、面談だったらしいな。何か言われたか?」
う、またその話か。
「まぁ……早めに志望校決めようね、みたいな。」
「まだだったのか。」
「うん。音楽いくか、普通いくか。」
「音大にでも行きたいのか?」
「それもまだ………」
「そうかぁ……でも、もう三年生だよなぁ……ゆっくり考えろとか言えねぇなぁ。」
私は一応先輩にも聞いてみた。
「神にいは?どうやって決めた?」
「えーと、俺は普通科に行きながら先生のところに通ったよ。」
「どうして?」
「いやー、音楽の道をひたすら走るのもどうかなーと思って。」
「だよねぇ……」
「ま、無難なのは普通科だよな。幅広いし。」
曖昧にうなずいておいた。
「とりあえず、明日楽しんでくればいいんじゃね?」
なっ
「明日?どっか行くのか?」
心の中で思いっきり神にいに馬鹿と言った。
「う、うん。友達と。買い物に。」
「勉強もするんだぞ。」
「はーい。ごちそうさまでした。」
早々に退散しておいた。