本2(満)
□第五話
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建はそろそろとトランクの蓋を開けた。
一和が鍵を閉める直前に、開けておいたのだ。
周りに人がいないことを確認すると、パッと車から飛び降り、近くの茂みに隠れた。
すぐ目の前には議員専用の出入り口がある。
が、そこには当然のごとく、ガードマンがいる。
とりあえず、ここで張っていれば、あいつはいつか出てくるはずだ。
が、どうしてもはやる気持ちは抑えられない。
どこか、違う出入り口はないのか。
建は物音をたてないように、ゆっくりと移動し始めた。
「ったく、どこうろついてんのかしら。」
奈々は国会の真上まで来ると、少しずつ高度を下げ始めた。
さすがに、今の時間帯はまだ会議中なのか、外に人は見当たらない。
「もう中に潜り込んじゃったなんてないよね?」
こういうとき、風の声を聞き分けられない自分がもどかしい。
なるべく、車が停まっているところを探していたのが、間違いだった。
「おい!あれは、子供じゃないか!?」
パッと声のした方を振り向くと、数名の、議員と思われる人たちが奈々を指差していた。
「ちぇっ。見つかっちゃったか。」
奈々は軽く笑うと、そのまま議員達に突っ込んだ。
「うわっ。」
案の定、議員達は派手に固いコンクリートにしりもちをついてしまった。
「ハハハッ♪……っと、いけない。建を探してるんだった。」
おまけに、あっかんべーとしてから、奈々は再び高度を上げた。
「おい!早く!誰か!アレを持って来い!」
何事かと、わらわら出てきた人たちは、一人の少女を確認すると、慌てて中に戻った。
何か、騒がしいな。
建は、結局もとの場所に戻ってきていた。
専用出入り口から、たくさんの人が慌しく出入りしているのが見える。
これは、早く見つけることができるかもしれない。
と思い、じっと目をこらしていたら、違う憎むべきものが出てきた。
あれは、この前奈々の力を吸い取ろうとしたやつじゃないか!?
ということは、俺の他にも誰か来てる?
いや、それとも、とうとう強行突入に行くのか?
俺は戻るべきなのか?
自然と、手首のミサンガを見てしまう。
ちっ。
こんなもの、やっぱり縛られているだけなのか。
建がミサンガを取ろうとしたその時、誰かに名前を呼ばれた。
「建っ!!」
「奈々!?」
「大馬鹿やろーっ!!探し回ってるうちに見つかっちゃったじゃない!」
「この騒動の原因はお前か!知らねーよ、勝手に見つかったのが悪いんだろ!」
「アンタが復讐なんて馬鹿げたことをやろうとするのが悪いんでしょ!
第一、ここにはアンタの母親はいないわよ!」
「……は?」
建は、いきなり頭を打たれたような感じがした。
「今、何て言った?」
「だ・か・ら、ここにはアンタの母親はいないの!」
体中から、力が抜けた。
「そんな………空振りかよ……」
「ほら!早く立って、逃げ…」
「いたぞー!」
運悪く、ガードマンにとうとう気付かれてしまった。
「げっ。ほら!建!」
奈々はまだ呆然としている建を引っ張りながら、走り出した。