本2(満)
□第二話
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その夜は、大悟と建、その他数人の男子が屋上に来た。
もちろん、もしもの時に控えて見張るためだ。
大人たちはずるい。
いつ奇襲をしかけてくるかわからない。
それが、雪の意見だった。
そこで、宵っ張りな男子が見張りの当番を務めることになったのだ。
「じゃ、さっき言った通りにしてくれ。」
各二人ずつにわかれ、屋上の四隅に散った。
もちろん、大悟と建は一緒に組んだ。
「どうだ、建。久しぶりに学校にきてみて。」
「ん?あぁ……なんか、違和感があるな。人と話すってことに。」
「へぇ。」
「あの雪は、オレのこと、知ってたんだな。虐待されてるってことも。」
「そういえば……そうだな。」
「ヘンな奴。何でオレのことちくんなかったんだろ。」
「さあ?あまり、自分から関わらないやつだからな。」
「でも、有名人なんだろ。」
大悟は、ぽつぽつと話し始めた。
「それは、主に、奈々のせいだな。」
「???」
「あいつ、今はああだけどさ、自分でも言ってた通り、すっげーワルだんったんだ。
授業は平気でサボるし、先生や友達だけじゃなく、そこらへん歩いてる人にもいたずらするし……クラスのリーダーっていうより、支配者って感じだったな。
おまけにチカラも性格も強いから、誰も太刀打ちできなかったんだ。」
建は適当にあいづちを打ちながら聞いていた。
「で、今年に入って転校生が来たんだ。それが、雪。
で、早速奈々が絡んだんだけどな、雪には全く通用しないんだ。
奈々がいっくら雷を落としても、炎を投げても、それは、雪の前までくると、突然消えちまうんだ。
そしたら、クラスの中にもだんだん異変が起こり始めた。
雪の傍にいれば、奈々にいじめられない。雪のほうが奈々より強い。
奈々のところからどんどん友達が離れていった。でも、奈々はドンドン荒れていった。
そんな中、今まで誰にも自分から声をかけようとしなかった雪が近づいたんだ。
奈々が攻撃をしかけても、動じずに、その手をとって、何かを囁いた。
それからだなー。奈々が落ち着いて、雪と仲良くなったのは。」
「何を言ったんだ?雪は。」
「わからない。二人に聞いても教えてくれねぇんだ。『女の秘密だ』とか言ってな。」
「ふーん……」
それから二人はしばらく黙りこくった。
他の隅でしゃべっているのが、風に乗って時々聞こえてくる。
(今日からずっと奈々と一緒にいられるんだ。だから、夏休みを最後のチャンスに……)
「奈々はいい奴だと思うけどな……」
大悟は、いきなり考え事をしていた本人の名前が出てきて驚いた。
「それって、どういう意味だ?」
「え?そのまんまだけど?大悟こそ、どういう意味だと思ったんだ?」
「や、え、その、建は奈々のことを好きになったのかと……」
「んな一日でなるかよ。まさか、大悟は……」
「違う違う!!」
「オレ、まだ何も言ってないぞ。」
「………」
「スキなのか?」
「……絶対、誰にも言うなよ。」
「スキなんだー。へぇー。」
「言うなよ!」
「はいはい。」
建はニヤニヤしながら約束した。
大悟は、顔を赤くしながらそっぽを向いた。
月が美しい夜だった。