短編
□はじまり
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はっと目をあければ、見慣れた天井があった。
カーテンから淡い光がもれている。
春の優しい暖かさが部屋の中に漂っていて、普通なら2度寝するところだったが、今日はそのまま起きた。
全身汗でじっとりしている。
心臓がきゅっと絞られたように苦しい。
タンスを開けて制服に着替えながら思った。
あれは誰だろう?
全く見知らぬ人だった。
もうどんな顔をしていたのかさえ思い出せない。
ただ形のいい唇が笑みを浮かべたのだけ記憶に残っている。
それは優しくて、切なくて、儚い微笑みだった。
変な夢…
今日から新しいクラスになる。
それで緊張しているのだろうか。
もう心臓は平常通りに戻っていた。
朝ごはんの匂いがする。
もう夢のことは忘れて、階段を降りた。
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