リクエスト小噺

□ANIMAL LIFE
2ページ/9ページ



今日の野球部の練習は午前だけだと聞いていたので、俺は昼下がりに竹寿司に行った。
「ごめんなー獄寺くん。武のヤツ、こういう日はだいたい友達とメシ食って遊んでくるんだ」
あんまりしてほしくねえけどコレもつきあいだしななんて山本の親父が苦笑して見せる。
ちょっとがっかりした俺は帰ろうとしたが、山本の親父が煎餅と日本茶なんて出してくれるから、俺は仕方なくカウンターに掛けた。
山本がいなけりゃ、今日ここに来た意味はない。
でもそんなこと言えない俺は、ぽりぽりと煎餅を食べる。
親父と世間話をして煎餅が最後の1枚になった頃、
「ただいま」
店の引き戸が開いて、山本が帰ってきた。

「獄寺!?」
約束をしてなかったのに俺がいるもんだから、山本の顔が、着崩した制服よりもだらしなくなって。
「なんだ、来てたのか」
そう言って、えへへと笑った。
この、ちょっと困ったような照れ臭そうな顔が、俺は密かに好きだった。
だから俺は立ち上がって、山本の部屋までそっと着いていった。

「どうしたんだよ急に?」
山本が、着替えながら尋ねてくる。
「……べつに」
早くも俺の目的が達成されそうな姿の山本から少し視線を逸らし、俺は曖昧に返す。
「でも、ちょっと嬉しい」
着替え終わった山本が、俺の横に腰を下ろした。
そして、まだ視線を逸らしたままの俺の手にそっと山本が手を重ねる。
あ。
これは、だいぶ脈アリな雰囲気…。
俺は山本に手をいじらせながら、これからをシミュレーションした。

このまま、俺の顔を山本に向ければ、キスするには絶好の射程距離だ。
そして俺がすごいのを一発かまして、山本をメロメロにさせて、なんか良さげな雰囲気になったら、がばっと押し倒してちゃっちゃと済ませればいい。
なんかざっくりした計画ぽいけど、緻密にやってがんじがらめになるよりマシだ。
よし!いくぜ怒濤の攻め!!

俺は自分を奮い立たせて、でもさりげなさを装って山本に顔を見せた。
すぐ近くに山本の顔があって。
俺の手を握っていた手は、俺の肩に添えられて。
山本の唇が、俺の唇に触れた。
しまった。出遅れた。
俺も山本の服を掴み、山本の唇を舌で割る。
「んっ…」
先に声を上げたのは、山本の方で。
俺は更に奥を目指す。

リードを奪いあうようながむしゃらなキスをして。
やがて、互いの唇さえも邪魔に感じた頃。
「ふっ…」
山本が離した唇から、熱い吐息が漏れた。
瞳を閉じて、少しだけ上気した紅い頬を見たら。
やっぱり、本当に山本と繋がりたくなった。
今なら、こないだ観たドラマの再放送に出てきた女みたいに“セックスしよう”くらい言えるかもしれない。
「ごくでら…」
押し倒された山本が、見上げるように俺を映す。
黒いのに穢れを感じさせない瞳が、邪な顔をした俺を映す。

「やまもと…し「ぶっ」
してもいいぜ、と俺が言う途中で。山本が、勢いよく吹き出して。
わけが分からない俺の鼻先まで顔を寄せると、無邪気に言った。
「ごくでらのクチ、おかきの味がする」
「え?」
あんまりに予想外な、ムードも粉砕する発言に、俺は目が点になる。
でも山本は、それが妙にツボだったらしくて
「なんかかわいー。そんなに食うほど俺のこと待ってたのか?」
またあのだらしない顔で、潰さんばかりに俺を抱き締める。
俺の頭の中で、ガーンと鐘が鳴った気がした。
なんだかいろいろショックで、山本に抱き締められたまま俺はがっくりと肩を落とす。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ