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□wituout you
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俺と山本は、何度かセックスをしたことがある。
最後にしたのは、数か月前。
間が空いているのは、セックスのあと必ず喧嘩になったからだ。
だけど快感だけは追いたくて、けっきょく挿れる寸前までの行為でお互いを慰めている。

正直、セックスは嫌だ。
痛いし、みっともないし、怖い。
気持ちよくなる時も、このどれかが必ず伴う。
好きという感情だけで何もかもできるわけじゃないことを、俺は痛感した。

でも山本は、“好きだから抱きたい”とかぬかしやがる。
山本はハマッたみたいで、初めの頃は誘ってきたり無理に抱いてきたりした。
だけど俺がちゃんと拒むと、もう抱かなくなった。
獄寺がいいと思えるまで待つから、と言って。
思いやりのあるようなこの言葉は、恩着せがましく聞こえて逆に腹が立った。
そして同時に、山本に我慢させている自分を不甲斐なく感じた。

セックスする前の方が、俺たちはうまくいっていたのに。
最近、山本と一緒にいる時に思うことは、そんな虚しいことだ。


煙草になかなか火がつかないので、よく見たらライターのオイルがなくなっていた。
「なんだよ、もう」
独りごとを零しながら俺は立ち上がり、近くの戸棚を開けた。
そこでハッと手が止まったのは、マッチと一緒にコンドームの箱があったからじゃない。
その横に、シャマルが寄越した薬があったからだ。

それは、色も大きさも角砂糖に似ていて。
でも、用途や効果は違うものだ。

ターゲットの体液で溶かして飲めば、そいつの夢に出られる。
シャマルが胡散臭く言った。

夢だなんて嘘くさすぎるし、だいいち体液で飲むなんて気持ち悪い。
だから試す気にもなれず、こんなところに放ったらかしにしていた。

「……使用期限あんのかな」
煙草をふかして、俺は元にいた場所に戻った。
山本はまだ眠ったままだ。指に触れると、赤ん坊みたいに握ってきた。
そんな様子を眺めていると、胸が軋んだ。

せめて夢の中で、満足させてやれるなら。
そう思った。
この薬の保証はない。
でも、どうせ使うなら山本に。
そう思った。

薬を掌に載せ、もう片方の手で山本の口を開いた。
指を1本つっこんで、山本の唾液を掬った。
山本は、まだ目を醒まさない。
濡れた指で薬に触れると、それは驚く速さで溶けた。俺は慌てて掌を窪ませる。
掌の液体が、俺を映す。躊躇う貌を見ないふりをして、俺は一気に口の中に流し込んだ。
「うぇ」
俺はキッチンに駆け込み、水をがぶ飲みする。
無味ではあるが、気分的に嫌な感じがした。

「…ふう」一息ついて、俺はまた山本の元に行った。
まだ眠る山本にキスをして、その体に寄り添う。
途端、ものすごい眠気が体を襲った。
薬のせいかな。そんなことを思いながら、俺は眠気に身を任せた。
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