リクエスト小噺

□sweet pain
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学校で風邪が流行したとき、ひとり元気だった山本が“バカは風邪ひかない”と笑っていたが、確かにそうかもしれない。
夏休みが始まって1週間、俺は学校の宿題を全て終わらせてしまったのだ。
それもずっと、このエアコンが動いてくれたからだ。
苦手な美術の課題も終わらせて、達成感に浸ったまま寝てしまったら、見事に風邪をひいた。
それからずっと、俺はこの部屋でだらだら寝ている。

布団や着替えを取りに行くのも億劫で、干していた洗濯物を体に掛けて寝ている。
薬もない。あっても、何も食べていないから服めない。
悪化するのは分かっているけど、動きたくなかった。
だって体が熱くて何もできないんだもの。にんげんだもの。
そんなことをうすぼんやりと思って、俺は再び惰眠を貪ろうとした。

このまま、クーラーのもとで死ねるなら。
おれ死んでもいい……
そう思った時。
玄関の辺りで、ガチャガチャと物音がした。
ノブを捻った後に、ピンポンとインターホンが鳴る。
そして、ほどなくして、鍵をカチャリと開けようとする音。
俺の家の鍵を持っている人物は、3人しかいない。
俺と、10代目と、山本。
でも礼儀正しい10代目は、鍵やノブに手をかけるより先にインターホンを鳴らしてくださるから。
今、俺の家の前にいるのは━━
「やっぱり!寝てると思った!!」
ずかずか部屋に入り込んでくる、山本だ━━。

「つうか寒っ!この部屋クーラーつけすぎじゃね?」
山本が、エアコンのリモコンを探す。
「うわっ18度!?昭和基地か!!」
いちいちデカい声と共に、ピッとエアコンの電源が切られる。
「そんでまたそんな薄着して!掛けてるそれなに?バスタオルじゃん!!」
続いて、ガラガラとベランダの窓を開ける音。
その途端、むわっとした熱風が吹きつけて。
俺は、窓に背を向けるように寝返りを打った。
そして「……あれ?」山本が、はじめて俺の異変に気づいた。
「獄寺…風邪ひいてんの?」
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