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翌日、片づけておかなければならない仕事などで、けっきょく俺が空港に着けた時は夕暮れが見えていた。
「なんだか…まだ実感わかないや」
飛行機の中、同行した隼人の前で俺は独りごとを漏らした。
「まだ会ってないからです、そんなもんですよ」
隼人が穏やかに言った。その様子に、俺は少しだけほっとした。
きのう電話を切った隼人は、夜更けにも拘らず一言吠えた。それはイタリア語で、俺が教わったことのある言葉ではなかった。ただ聞いた感じでは“クソッ”とか“ちくしょう”とかいうニュアンスを感じた。
そして、トルコ石のような瞳は濡れていた。
そんなことがあったから、きょう会う前から隼人にどう接しようかと考えていた。
でも、この様子じゃ大丈夫そうだ。
きっと昨夜、感情をリセットする方法を見つけたんだろう。
だから「イタリアまで長いです。向こうに着くときっと休む間もないですから、今のうちにゆっくりなさってください」隼人の言葉に、俺は素直に従えた。「そうだね」


俺がマフィアのボスなんて立場についてしまったのは、9代目が引退宣言をしたからだ。
だから俺は、ボスとしての判断や振る舞いに困った時は9代目に相談することができた。
9代目は、自分からマフィアの話をすることがなければ、俺の相談にさえ的確な答えを出すこともなかった。ただ穏やかな表情で相槌を打ち、相談しているうちに俺自身が答えを見つけられるように話の舵をとってくれた。とても聞き上手なひとだった。
あのひとに、会いに行くんだ。
そして、これが最後なんだ。
そう思うと、俺の胸の中が軋んだ。


イタリアに着いた時間は、俺が日本の空港を発った時間と少ししか変わっていなかった。
これがいつも不思議な気がする。大陸だけでなく、時間も飛び越えた感覚。
「ツナ。獄寺。」
空港で、ディーノさんの声が聞こえた。
「迎えに来たぜ」
ディーノさんが言うが早いかロマーリオさんたちが俺と隼人の荷物を運び、やがては俺たちも車に押し込まれた。
「9代目のところに直行するぞ」
「ありがとうございます…」
ボンゴレは、迎えを寄越す人間がいないほど手薄になっている。そんなことに気づかされて、俺は少しずつだけど今の状況を感じ始めていた。
いつもは美しく感じる風景が、今日はビデオの早回しのように通り過ぎていった。
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