リクエスト小噺

□soda
3ページ/6ページ



「おい…」
女子たちがつくったケーキが入っているそれを見て、獄寺の顔が険しくなる。

本当は、とっくに気づいていた。
というか、獄寺が怒るように、わざとしていたんだ。
「ほんと、思ったとおりの反応だよな」
「てっめえ、ひとのことバカにしてんのか」
獄寺が俺の肩をどんと突き飛ばす。
でも俺は、そんなことじゃ、よろけないし、怯まない。
「バカにしてるのは獄寺の方だ」
俺だって、いたずらに獄寺を傷つけるつもりはない。
いつもは、獄寺に疑われたくないから、こんなもの受け取らない。
その俺が、なんでこんなことをしたか、考えたことあるのか?
見たくもないのに隅々まで俺に曝すその顔を、俺はじっと見据えてやった。
「その髪、ゴムもピンも、ぜんぶハルにもらったくせに」

「……え?」
獄寺が、肩透かしを食らったような顔をする。
「え、どういう意味だよ?」
獄寺は、本当に分からなかったらしく、俺に訊く。
「だか、ら…」
俺は下を向いて、くちごもる。

なんで分からないんだよ獄寺のバカ。
いくらハルでも、おまえのために選んだものを着けてほしくないんだよ。
本当は、そう言いたいのに。
そんな100円くらいのちっさなモノや友達のハルに嫉妬してる自分が、
腹いせにどうでもいい女子の好意を利用した自分が、
すごく情けなくて、ちっぽけで。
俺は、ますます獄寺の顔が見れなくなった。
獄寺のことを怒らせたくないし、こんなことで喧嘩なんてしたくない。
だけど、俺は獄寺に怒ってほしかった。怒るところが見たかった。
でも、怒ってないなんて言われたら、怒る価値がないなんて言われたら。
俺は、獄寺に本当になんとも思われていないのだろうかって不安になる。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ