リクエスト小噺

□soda
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学校の帰り道、ツナと別れてから。
獄寺は、本当に俺を見なくなった。
もちろん何も話さないし、信号待ちでも俺をさっさと置いて行ってしまう。
だから俺は、ずっと獄寺の少し後を歩いていた。
獄寺が俺を鬱陶しがっていることに、気づいていながら。

「なあ、なんで獄寺怒ってんの?」
「怒ってねえ」
「嘘だね。怒ってる」
だって、その声がもう怒っているもん。
「怒ってねえっつってるだろ!」
獄寺が、俺の家の近くで走り出した。
俺も走ろうとすると、また赤信号で引っかかってしまい、すでに駆けていた獄寺は横断歩道の向こう側に行ってしまった。

「あーあ」
俺はそう零して、信号が青くなるのを待った。
獄寺が怒り出したのは、家庭科の調理実習授業が終わった頃だった。
きっと、これのせいだと思う。
俺は、右手にずっとぶら提げている紙袋を見下ろした。
中には、女子たちがつくったケーキが入っていて、あんまり多いから親父にでもあげようかなと思っているところだ。
自分で食べないなら受け取らなければいいのに、と言わない相手を選ばないといけない。

反射神経がいいので、青信号になった途端に走ることができる。
俺は通学カバンも肩から提げた重い身で、小さくなった背中めがけて走った。
「なんなんだよてめーは」
いつもの分かれ道を過ぎても獄寺の後ろを歩く俺に、獄寺がたまりかねて振り向く。
「だって、まだ仲直りしてない」
「喧嘩もしてねーよ」
獄寺が、また前に向き直って歩きだす。
「それって、怒ってないってこと?」
「てめーなんか怒る価値もねえ」
ちょっととがった声でやりとりをする俺たちを、すぐそばの公園からこどもたちが眺めてる。
「じゃあ、なんで怒らないんだよ!」
俺はもどかしくなって、つい言ってしまった。
「━━はあ?」
獄寺が、眉を吊り上げて振り向く。
「怒れよ!怒りもしないってどういうことだよ!」
急にわめきだした俺に、獄寺がつかつかと歩いてきた。
「てめーは、ほんと、わけわかんねーな」
獄寺が、ランボを叱るみたいに、額に血管を浮き上がらせて呟く。
「いったい何がしてえんだ」

「…獄寺、本当はこれで怒ってるんだろ」
俺はそう言って、ずっと持っていた紙袋を獄寺に翳した。
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