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□Teenage Blue
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「━━で、ツナは将来どうしたいって?」
10代目と別れた後、山本が目をくりくりさせて聞くから、俺は首を横に振った。
「…俺がちゃんと自分の意思で進路を決めるまでは教えないって言われた」
「あはははは」
山本が、声を上げて笑う。
「ツナらしいのな。でも、獄寺のこと考えて言ったんだろ」
「それくらい分かってる」
俺が山本から顔を背けたのに、山本はまだ笑っていた。

「獄寺は、高校に行くかどうかさえも決めてないんだな」
しばらく笑った後、山本は急に静かに言った。
「え?」
山本は、俺の顔を見ないで言った。
「俺は、高校には行こうと思ってる」
「……高校野球をしたいから?」
「それもあるけど…」
山本は、言い淀んだ後、続けた。
「昨日の家庭訪問の時に、親父と先生が、高校は出とけって言ったから」
「…………」
親父が、言ったから。先生が、言ったから。
山本の意思のない言い方が、俺にはすごく違和感があって、何を言っていいのか分からなかった。
山本が、面倒臭そうに足を投げ出すように歩く。
「今は、高校を出てないとほとんどの資格が取れないって。だから出とけって」
そこに、山本の意思はほとんど感じられなかった。

「おまえ、どんな資格を取りたいんだ?」
俺の質問に、山本が俯く。
「……別に」
「なのに、高校に行くのか?」
「今の日本の中学生なんて、そんなもんだよ」
山本が、言い訳がましく言う。
「高校でなりたいものが見つからなければ、大学で探すし。みんなわりとそうだよ」
「みんなじゃねぇよ。おまえだけだろ」
言いながら、さっきの10代目の言葉が頭に浮かぶ。
同じことを言っているはずなのに、山本がどんどん離れていく気がした。

「そうだけど」
山本が、小さく頷いた。
「おれだってさあ、小さい頃はもっと、なりたいものとかあったんだぜ?」
山本が言うから、俺はその顔を眺める。その代わりに、山本は空を仰いで指を折り始めた。
「野球選手もそうだけど、寿司屋とか、和太鼓のプロとか、あ、宇宙飛行士もなりたかったな」
「…ふうん」
「でも、それって実は俺たちが意識しない頃からレールが敷かれていて、その上にたまたま乗っていた奴が有利なんだよな」
話しながら興奮してきたのか、山本が珍しく僻みっぽいことを言う。
「夢がないうちから塾や習いものに行かされたり、旅行なんかで新鮮なものに触れたり」
今日は、よっぽど思うことがあったんだろう。
「そうやって、勉強がたまたまできるから有名な大学行ったり、そのまま有名な企業に就職したり。素質があったり頭がいいだけで選択肢が増えるなんてさ。それって、不公平だと思わねえ?」

「…ちょっと思う」
俺は、いちおう頷いた。
でも、本当はよく分からなかった。
だって、俺は小さい頃からマフィアになるつもりだったし、他のものは考えたこともなかった。
それは自分の家がそうだったからで、想像してきた自分の将来はいつもマフィアの姿だった。
でも、今の山本の話を聞いて、ちょっと迷った自分がいた。
この俺がなろうとしているものは、単に山本の言う“レール”なのかもしれない。

俺には、マフィアじゃない仕事も考えるべきなのか?
掬い上げた砂を掌から零すように、自分で自分の将来を狭めていく過程をどうしても歩まないといけないのか?

「…おまえは」
俺は、山本の顔を見ないでくちを開いた。
「本当に、そう思っているのか?」

「え?」
山本の表情が硬くなる。
「例えば、野球をしたことない奴がこのあと野球部に入って、やってみたらおまえなんかよりもずっと巧くてレギュラー入りして、高校野球で有名な学校にスカウトされたとして」
俺のもしも話を、山本はじっと聞いていた。
「そのとき、おまえは“俺の方が先に野球をやってたのに狡い”って怒るのか?」
レールに立っている奴は、そんなに得なことばかりなのか?
もしかしたら、こんな風に逆恨みをされたりするかもしれないのに。

山本が、恥ずかしそうに俯いた。
「……そっか」
今まで悪態をついていただけに、山本の言葉は素直にとっていいのか分かりかねたけど。
「獄寺は、本当にいろんな風に考えられるのな」
なんとなく、先ほどよりはクールダウンしているように思えた。
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