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□Teenage Blue
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昨日から家庭訪問が始まって、野球部は活動が休みになった。
昨日はスムーズに3人で帰ることができたのに、今日は山本が担任に呼び出された。
山本を待つ(って10代目が仰った)ために、職員室の前にある掲示板を暇つぶしがてらに覗いていると、10代目が世間話を始めた。
「獄寺くん、進路希望票になんて書いて出した?」
「あ、あれっすか?書いても出してもないっす」
俺の返答に、10代目が苦笑しながら小さくため息をついた。
家庭訪問が始まる前に配られた進路希望票は、すごく簡単なもので、将来なりたいものや志望校を書くだけの単純なものだった。
心配されなくても進路なんて決めているので、自分には必要ないと思って出さなかった。
第一、マフィアになるつもりですなんて言ったら、もっと面倒臭いだろうことは目に見えている。
勉強は嫌いじゃないから、万が一なら学校の敷地内にいなくてもできる。
志望校なんて、特にない。あるとすれば、10代目の進学したい高校だ。

「獄寺くん、卒業したら本当にどうするつもりなの?」
10代目が、躊躇いがちに聞いてくる。
「俺は、10代目と同じです。高校だろうが、マフィアだろうが、なんだって」
力強い俺の答えに、10代目が顔を顰めた。
「だめだよ、それじゃあ」
「え?」
「俺がどうするか、じゃなくて、獄寺くんがどうしたいか、なんだよ」
俺は黙って、下を向いた。
10代目は、絶対にそう仰ると思ったからだ。
もし俺が卒業後はイタリアに帰るって言っても、この方は賛成するだろう。
それが俺の決めたことなら反対はしないと。
たとえ、それを寂しいと思っていても、笑顔で。
2年生の夏、俺がイタリアに行くことを決めた時の10代目の言葉を思い出した。

俺は、10代目の傍にいたくて。
10代目も、俺と一緒にいてもいいと思ってくださって。
お互いの気持ちが、ちょうどいいバランスを保っているはずなのに。
お互いを思いやると、その均衡は崩れてしまう。
それが、とても歯がゆかった。

なんで、俺たちは今のままでいてはいけないのだろう。
どうしておとなたちは、俺たちに将来をひとつだけ選ばせようとするのだろう。
いま迷っているなら、高校に進んで考えればいい?
そんなの、ただの逃げや保険みたいで嫌だ。
だいたいその高校だって、“行きたい高校”じゃなくて“行ける高校”しか割り当てないくせに、俺たちに選ばせようとする。
中学生の周りにいるおとなは、矛盾だらけだ。
そんなことしてるから、有名な高校や大学に入ったからって羨ましがられない。
入試が難しいだけで、卒業すると意外と普通に成り下がったりする人間は多いと思う。
大学4年生が学力テストじゃ高校3年生に敵わないっていうバカな話も、最近は一般論になってきた。
いっそ、入試は誰でも入れるくらい簡単にして、卒業のハードルを高くすればいいんだ。
そうすれば、卒業生は羨望の眼差しを受けるし、本人も達成感が生まれる。学校の質も落ちない。
そう思うおとなは、この社会にはいないのだろうか。
それとも、それを試みることは大きなリスクでもあるのだろうか。
実は、俺にはちっとも測ることができない。
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