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□SWEET VALENTINE
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街に出ると、辺りは男女でいっぱいだった。
そして、必ずどちらかが紙袋なり荷物なり持っている。
両手をポケットに入れて歩いている自分が、すごく手持ちぶさたに思えた。
今日に限って明るい日差しの下、俺は下を向いて歩いた。

そんな時に、獄寺からメールが。
今日は帰れないかもしれないから、自分の家に帰るなら鍵をかけとけ。
「もうやってるっつうの」
俺は小さく呟いて、携帯電話をポケットにしまい込んだ。

とにかく、このバレンタイン・デーというやつは毎年なにかあるのだ。
それは、どこかでチョコレートを貰えるという保険が“ある”のではなく。
もめたり怒ったり嫉妬したりというイザコザが“ある”という意味だ。
穏やかな雰囲気で始まりそうでも、それを指摘すればそれだけでぶち壊しになる。
そう、俺たちの間でバレンタイン・デーの日だけは“今日は何もなく過ごせたね”と言うことさえ地雷なのだ。
そもそもバレンタイン・デーは女性から贈り物をする日で、俺と獄寺の間にそんな女性はいないのに。
いつもスッキリ過ごせないこの不条理さが、悔しい。
それなのにいちばん期待をかけてしまうこんな日は、なくなってしまえばいい。
そんな、ひがみっぽい気持ちにさえなってしまう。
まるで、好きなひとからチョコレートを貰えない男のように。
っていうか、それそのまま俺なんだけど。悪かったですね、はいはい。
久々にバッティング・センターに向かいながら、俺はもやもやしていた。
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