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□treasure
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「悪かったよ。ごめん」
「…別に」
「…………」
「怒ってねえよ」
「獄寺」
それでも、獄寺は納得していないようで、俺に近づいてくる。
「俺は別に、おまえにやきもちを焼かせようとかそんなつもりであんな話をしたわけじゃないから」
「じゃあなんであんな話をしたんだよ」言いながら、慌てて付け加えた。「焼いてねえけど」

嫉妬なんてしていない。だって、山本は俺が好きなんだ。
些細な話で、山本はこんなにも俺を気にする。それくらい、俺を好きなんだ。
俺に嫉妬なんて、させないくらい。

そう思うのに。
山本の好きになった女の話の後から、俺の中は確かに変わってしまった。
嫉妬じゃない。これは嫉妬に似た、もっと別の感情なんだ。
だって山本は、俺しか見ていないはずなんだから。
それなのに。だから俺も、応えてやっているのに。
醜く逸るこの気持ちを、おまえはなんで俺に植えつけるんだ。
嫉妬じゃないのに。

「それは…」
山本が、罰の悪そうな表情で弁解する。
「ツナが聞いてきたからだよ」
「…ッ」
俺は言葉に詰まってしまう。
こんなつまらないことを、10代目のせいにするなんて。
俺が非難する前に、山本が予防線を張る。
「獄寺だって、そうだろ?」
ますます何も言えない俺に、山本が微笑んだ。
「だってツナは友達だから」
山本は晴れやかな顔で、俺の瞳を覗き込む。
「俺にとって4年のときの話なんて、もう隠すほど大した話じゃないから。それをツナが聞きたいって言ったから、喋っただけだよ」
昔のハナシだよ、なんて山本が笑いながら続ける。
「俺は、獄寺も大事だけど、ツナも大事だからな。獄寺より優先することだってあるよ」
こだわることなく話す山本に、俺は全身の力が抜けるような気持ちに襲われた。
「獄寺」
山本が、俺の腕を掴む。
「でも、それがどうしてもイヤだって言うなら、もう話さないよ」
さっきまで笑っていた山本の瞳は、今は真剣で。
「悲しかった? ごめん」
優しく、俺の中をほぐしていく。

分かっているのに。
山本が、俺を好きでいることくらい。
それなのに。
俺はなんで、こんな嫉妬…に似た感情を抱えたんだろう。
自分も好きになった女の話をしてやろうかとか。
でもそんな惨めな仕返しなんてしたくないと逃げたこととか。
そんな自分のプライドが、とてつもなくちっぽけになっていく。
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