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□愛のことば
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いつもの教室は、昼休みが終わったとたん、いつもよりテンションが高かった。
教卓の辺りでみんなが固まっていて、笑い声も聞こえる。
「どーしたんだろ?」
俺と一緒に教室に入ったツナが、首を傾げる。

「ラブレターよ」
集団から離れたところで英語の準備をしていた黒川が、俺たちに教えてくれた。
「ラブレター?」
「教室に落ちてたんだって。誰が書いたか貰ったかって、みんな大騒ぎよ」
みんなコドモよね、あれじゃ書いた本人も言い出せないじゃない。黒川がつまらなさそうに呟いた。

そんななかで
「休みで会えない日も、毎日、きみのことを考えます」
クラスの奴が、持っていたレポート用紙を大げさな調子をつけて朗読して。
俺の頭に、鈍器が落ちてきた気がした。

俺が、さっき獄寺にあてて書いた手紙。
最初のあたり、確か、そんなんだった。気がする。
そう思った途端、いやな汗がぶわっと掌に湧いた。

「ほんとだ、みんなガキだよな」
俺は、そう言うのがやっとで。
なるべく普通に見えるように、席まで歩いた。
「誰が書いたんだろ?」
なんだかんだでツナも気になっているようだけど、俺はそんなこと気にならない。
さりげなく机の中のものをぜんぶ出したけど、俺が昼までに書いた手紙は出てこなかった。
いやな汗が、掌どころか全身に及んだ。

みんなが読んでいる、あの手紙。
「もっとずっと、一緒にいたい」
間違いない。俺が書いた手紙だ。きっと、机から落ちちゃったんだ。
体じゅうの血が一気に引いていく感覚に襲われた。

「死ぬまでそばにいてください」
そんな言葉で、朗読は締めくくられて。
教室のどこかから失笑が漏れた。
囃し立てる声も聞こえる。

俺は、机に赤い顔を伏せながら、みんなの声を聞いていた。
言えない。絶対に言えない。
俺が書いたなんて。獄寺に書いたなんて。
どうにかして取り返したい。取り返さなければ。
そう思うのに、どうしていいか分からなくて、時間ばかりがいたずらに過ぎていく。
やがて
「じゅうだいめー」
小脇に本を抱えた獄寺が、片手を振りながら教室に現れた。

「なんすか?えらい盛り上がってますね」
獄寺が、教室中をぐるりと見回した。
「うん、なんか誰かの書いた手紙が落ちてたみたいでね…」
「手紙?」
ツナの言葉に、獄寺は首をひねった後、
回し読みされているレポート用紙が、ツナの手に移った。
俺は、思わず立ち上がる。
「なんだよ。そんな趣味のわりーこと…」
言いながらも、獄寺はツナと一緒に手紙を目にしていて。
「これ…」
獄寺が、真顔で呟いた頃には、
俺は、ぺたりと再び椅子に座り込んでしまった。

獄寺がこちらを向く前に、俺は顔を窓側に背けた。
心臓が、まるで耳許で存在しているかのようにうるさく響いている。
その鼓動は、クラスメイトの騒ぎ声をかき消すほどうるさかったのに。
獄寺の次の言葉は、その心音を吹き飛ばすほどの威力があった。
「10代目。これ、俺のです」

「えっ!?」
声を上げたのは、10代目で。
俺も、思わず山本を見た。
盗み読んだ手紙の持ち主に対する罪悪感と、
みんなに恐れられている問題児の告白に、
教室中が、水を打ったように静かになった。

「なんだよ、文句あるのかよ?」
みんなの視線を一身に受けている男は、教室の中心で手紙をズボンのポケットに押し込んだ。
俺をもういちど見やった表情は、何か言いたげで。
いよいよ耐えられなくなった俺は、教室を飛び出してしまった。
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