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□愛のことば
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「山本、なにしてんの?」
少し離れたところから、俺を呼ぶツナの声がして。
俺は思わず、書いた手紙を机の中に押し込んだ。
俺が慌てていることを然して気に留めていないツナは「メシいこう」いつもの調子で俺を誘う。
その横には、無愛想な顔をした獄寺がいて。
「おう!」
俺は、飼い主に呼ばれた番犬のようにふたりのもとに駆けた。

午前中まるっと使って書いた手紙は、それらしく完成して、あとは出すだけになった。
この昼メシの時間が終わった後の5時間め、俺は書いた手紙を獄寺に渡すことにした。
休み時間じゃなくて、授業時間中。そのときに渡すんだ。その方がなんか楽しいだろ?
さっきの俺みたいに、第三者に届けてもらってもいいかもしれない。
そうやって、獄寺に手紙が届いて。
そのとき、獄寺はどんな顔をするんだろう。
そんなことを考えるだけで、俺は嬉しかった。
あからさまに嬉しそうな顔はしなくていいから、俺だけに分かる表情で嬉しさを見せてくれればいい。
そんなことを考えてしまう俺は、すごく欲張りかなあ。
そう気づいて、自然と笑みが漏れる。
「おまえニヤニヤして気持ちわりいんだけど」
獄寺の悪態も、耳に入らない。いや、これは聞き入れたほうが良いのか。
でも俺はなんだか楽しくて、昼の時間を3人で過ごした。

「ごくでらあ。次の時間、ぜったい寝るなよ」
予鈴を合図に屋上を出ると、5時間めに手紙を渡したい俺は獄寺に声をかける。
今月の英語の時間は、外見も発音もビューティフルなネイティブの先生が派遣されている。
男子はギンギンに目が冴えているけど、女子はそのきれいな発音に眠ってしまう授業だった。
そして俺たちと違って欧米人を見慣れている獄寺も、この時間は女子と一緒に眠ってしまうのだ。
「寝ねえよ」
獄寺が、くちをとがらせて。
「今日は昼からシャマルに借りた本を読むんだから」
そう言って、保健室の方向へ歩きだした。
その返答が、ちょっと悔しかったけど。
まあそんな本の内容なんてぶっ飛ぶくらいのものを渡すのだからいいかと自分に言い聞かせた。
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