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□2つの願い
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2つの願い










「今日は、ぜんぶ俺がやるからなっ」
俺の誕生日。
山本は、でかいカバンを携えて、朝から俺の家に来た。
「はえぇよ…」
俺はげんなりする。朝の8時から現れやがって、迷惑なことこのうえない。
「早くないよ。だって獄寺起きてるし」
早起き体質で、言っていることもムチャクチャで、なんかそのカバンは中学の部活に行くときよく肩から提げてたし。
ほんと、こいつは変わらない。
俺は、毎年この日にひとつずつ歳をとるのに、
山本は、あのまま歳も成長も止まってしまっているんじゃないだろうかと思う。

今日は、俺の誕生日だ。
山本が俺に欲しいものを聞いてくるので、遠慮して2番めに欲しいものを言ったら“今年はモノじゃなくて誠意にする”などとぬかしやがった。
俺だって、雑誌で見ただけのその時計が30万円もするものだとは思わなかったけれど、だからってそんなにあからさまに趣旨を変えなくてもいいと思う。
しかもなんだ、誕生日プレゼントは、うちの家事を全部やることって。
俺はおまえのおかあさんか。肩たたき券とかいらねえぞ。

「ほらほら獄寺、もう朝なんだからちゃんと起きて顔洗ってこいって」
山本が、部屋にずかずかと入り込んできて、俺を洗面所に押しやる。
つうか、俺はもう起きてたし、顔だってもう洗ってたっつの。
でも「すぐ朝メシ作るからな!」山本がにっこり笑うから、俺はしぶしぶ洗面所で待っていた。
いつもは食後にする歯磨きなんかをやって時間を稼いでみる。
歯磨きした後のメシはまずいんだよなと思いながら、タオルで鏡も磨いてみた。
そのうち髪のセットも終わる頃
「獄寺いつまでそこにいるんだよ。もうメシできてるぞ!」
山本の声が飛んできた。おまえが勝手に俺を洗面所に押しやったんだろうが。おかんみたいなことを言うな。
きょう一日、山本が家でついてまわることを想像して、俺はため息をついた。
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