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□2つの願い
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山本の家事は、俺の家事とはまた違う。
不器用だとか手際の良さとか、そういう次元じゃなくて。
なんだか、全体的に粗い気がする。効率的なものも求めていない。
家事をする、というか、お手伝いをする、という感じに見える。
だからかもしれない、ちゃんとできたか見届けてやりたくなる。
まあそれでも、休みである今日のところは助かっているんだが。
おかんのように見えるあいつには、俺は姑に見えているかもしれない。
そんなことをふと思いついて、吹き出してしまった。

「昼メシできたぞー」
やがて出された焼きそばには、富士山頂の白雪のように野菜が盛られていた。
朝と同じ前掛けをしたまま、やはり朝と同じ得意げな顔で微笑まれる。
「獄寺、うまい?」
「…ん」
目の前で、山本も椅子に腰掛け、焼きそばを食べ始めた。
「うん、うまい」
まるで作ってもらったかのように、山本が感想を述べた。
「…うん」
俺も同調すると
「やっぱり?おいしい?嬉しい?」
また、山本がうるさく尋ねてくる。
こんなこというとバチが当たりそうだけど、
嬉しい?と聞いてこない方がよっぽど嬉しい…
なんて、そんなこといくらなんでも言えないので。
「うん、うまい。うれしい」
俺はおとなしく従った。
ざっくざくに大きく切られたキャベツを頬張ると、濃いソースの味がした。

今日はとても天気が良かったから、洗濯物はすぐに乾いた。
もちろん、その洗濯物を取り込んだのは山本で。
俺がテレビを観ている横で、せっせと洗濯物をたたんでいた。
タレントの声が聞こえて、反応した山本の笑い声も聞こえる。
窓からは、柔らかい陽射しが降り注いで。
とても、穏やかな午後だった。
幸福な夢をみた朝のように、瞬きをすれば醒めてしまうんじゃないかと思えるような、そんな、儚くてあたたかい時の流れだった。
このまま、このときが永遠に続けばいいのに。
そんなことさえ、思ってしまう。
俺の誕生日が、終わってしまっても、
これからも、ずっと。
そんなことを思った時。
ぽんぽん。山本に、頭を軽く叩かれた。
俺は振り返ったけれど、山本は俺の顔を見なかった。
「獄寺」
でも、手はそのままで。
「…なんだよ」
よしよしと、小さなこどもをあやすように、俺の頭を撫でた。
「誕生日、おめでとう」
これは現実なんだと。俺たちはここにいてもいいんだと。
そう諭すように、あたたかく━━。
「…おう」
その心地よさに。
俺は、安心して瞳を閉じることができた━━。
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