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□2つの願い
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「よし、じゃあ次は洗濯だな!」
食事が終わった後、山本が腕まくりをした。
キッチンには、ぴかぴかに洗われた食器が金属のバスケットに詰められている。
つうか、ひとり分の食器だし、今日は特に出かける予定もないから、昼メシ食った後の食器と一緒に洗ってもいいんじゃね?
と思ったけど、せっかくの厚意なのでありがたく受け取っておくことにした。
すると
「えっ。すげえ」
洗面所から、山本の大声が響く。
「なんだよ、もう」
俺が洗面所に向かおうとすると、洗濯物が入ったカゴを抱えた山本がこっちの部屋に入ってきて、ぶつかりそうになった。
「獄寺、もう洗濯終わってるのな!」
「え?ああ…」
さっき山本が俺を洗面所に押し込んだから、洗濯機を動かしたんだった。
朝食を食べ終わった頃に脱水も終わっていたら、後は干すだけで時間の短縮になると思っただけだ。
「獄寺、時間の使い方うまいのなー」
山本が、こんなことで感激している。
そんなこと、そこらへんの主婦が効率を考えれば編み出せることだろう。
こいつ、ひとり暮らしをしているくせに、どんな家事してるんだ?
全開にした窓から溢れる陽光を気持ちよさそうに浴びる山本を眺めながら、俺は聞かずにはいられなかった。

「うち? 俺はひとり暮らしだからー、洗濯は2・3日にいっぺんかな。まとめて干すんだ」
出た、男のひとり暮らし事情。
ベランダの中、俺の洗濯物を干す山本の横で、俺は植木の手入れをしていた。
「…風呂の水も、1日おきにしか入れ替えないだろうおまえ」
「そうそう」
山本が笑う。
「でも、獄寺もだろ?風呂よりシャワーだもんな」
俺は小さい頃から湯船に浸かる習慣がないだけだ。指で撫でつけたポトスの葉に、俺はそっと呟く。
物干し竿には、俺の服がいつもと違う格好で吊り下げられていた。

「あ、獄寺。次は掃除するからな」
「ん、わかった」
洗濯物を干す山本を見るのもそろそろ飽きてきたし、部屋でも片づけようとしていたところ、山本に声をかけられた。
テーブルの上やテレビの近くの整理を始めると
「違うって!俺がやるから!!」
山本が、大急ぎで洗濯を干し終えて部屋にすっ飛んできた。
「獄寺は、何もしなくていいんだって」
そう言った山本は、俺よりも先に掃除機を取り込んでいた。
つうか、なぜ知ってる。俺の掃除機の場所を。
「部屋で雑誌でも読んでろよ」
そんなことを言っては、山本はまたぐいぐいとリビングから俺を追いやろうとする。
反論する気も失せた俺は、山本に背中を押されながら、
昼メシは何をふたり分つくろうかと考えていた。
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