リクエスト小噺
□秋の夜長に
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今日は、朝からずっと獄寺といた。
学校が終わって、俺は金曜日の夜から獄寺家にいる。
なかなか外泊できない身が(家族はもちろん、実は獄寺も厳しい)、今回は2泊も許されたのだ。
思いっきり獄寺とベタベタできて、すごく嬉しいんだけど。
獄寺と一緒にいられる時間は、もう24時間を切ってしまった。
そう思うと、淋しくなる。
くしゅん。
煙草の火を消した獄寺がくしゃみをしたから、俺は獄寺を毛布に引き込んだ。
汗をかいた後だから、風邪をひかせてしまうかもしれない。
毛布の中で、獄寺の体を暖めるように抱き締める。
白い体が、吸いつくように俺の腕の中に納まった。
明日になれば手離さないといけないのに、この抱き心地の良さが憎い。
「かぐや姫って、こんな気持ちだったのかなあ」
ふと思いついたヒロインの名を呟くと、獄寺が怪訝そうに眉を寄せた。
「なんだよ、それ?」
「ん? だって、おじいさんやおばあさんと一緒にいたいのに月に帰らなきゃいけないだろ?」
「知らねえ。なにその話?」
獄寺が、俺の瞳を覗き込んだ。
「え、獄寺“かぐや姫”知らねえの?」
獄寺の表情は、本当に分かっていなくて。
「かぐやひめ? 苺かなんかの種類か」
とんちんかんな返事が返ってくる。そんな品種、ありそうだけど!
「いや、果物にあるかどうか知らないけど、俺が言ったのは昔話で…」
こういう時、育った文化が違うと手間がかかる。そして、ちょっと困る。
だって俺が獄寺に聞かせてやることは、
かぐや姫のあらすじと同時に、自分の今の心情だから。
すべったネタの説明をさせられているようで、なんだか決まりが悪い。