リクエスト小噺

□蒼く優しく
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蒼く優しく










食べて、騒いで、いつの間にか眠ってしまっていた。
10年後の未来から帰還できた日の翌日のことだ。
リング戦の後のように、今回の祝勝会も竹寿司で行われた。

「山本。あの風呂、どうしたらいいんだよ」
風呂から出て、山本の部屋に戻ると
「んー、ほっといていいよ。親父が入るから」
山本が適当に言う。視線は、俺の顔ではなく、掌にある雨の匣だった。
「なんだよ、未来から持ってきたのかよ」
俺はそう言いながら、山本に近づいた。
「ここで持ってたって仕方ねえんだけど。なんとなく」
山本が、いたずらがバレたこどものように笑ってみせる。
その匣は、相手を翻弄するように舞う燕が出てくるものだ。
24の山本も、こっちにきてからは14の山本も、愛用していたものだった。
「それ、ないとあっちのおまえが困るんじゃねえ?」
「ほんとだな」俺の言葉に、山本は笑って「でも、もう使わないだろ」そう言った。
もう、こんなものを使わなくていい未来にしたんだから。山本の言いたいことが分かった。
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