リクエスト小噺

□蒼く優しく
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「なんだか、タイム・カプセルみたいだな」
山本のやり方を見て、俺は思わず呟いた。
「タイム・カプセル?」
山本が、俺の顔を覗く。
「思い出のもんを埋めて、何年後かに取り出すってアレだよ」
実際にやったことはないけど、ドラマや映画では観たことがある。
俺が簡単に解説してやると、山本が顔を綻ばせた。
「いいな、それ!」
「え?」
「それ、しようぜ」スイッチが入ったように、山本がはしゃぎだした。

「マジかよ?」
「うん。面白そうじゃん」
山本が、満足げな顔をする。
「でもおまえ、これ、過去からきた俺たちに渡すんだろ?」
「うん」
「だったら…」
「でも、俺たちが未来でしたことが間違っていなかったら、過去の俺たちは匣なんて欲しがらないよ」
山本の、言っていることと、しようとしていることが、よく分からない。
「どういう意味だよ?」
「獄寺。俺たちは、未来を変えたんだろ?明るく、いい方向へ。だったら、たとえ過去の俺たちが未来を見てしまっても、それを変えようとは思わないはずだ」
めずらしく、山本が難しいことを話しだす。
「でも、その未来が過去の俺たちの目に悪く映った場合、その未来は変えられてしまう。それが良い方向に変わるなら、俺はこの匣を渡す。俺たちがボンゴレ・リングを使ったように、いらないけどいるものなんだ」
最後の方は、山本は苦々しい表情だった。
過去の俺たちの目に悪く映る未来。それは、俺たちが見てきた未来だ。
あれが、過去の俺たちに晒される未来にならない保障は、悔しいけどどこにもない。半減はしたかもしれないけれど。
「だから、そうだな……10年、だ」山本が、呟いた。「10年たっても過去から誰も来なかったら、これをふたりで取り出そう」
タイム・カプセルの開封期を、山本は幸せな未来が約束されているであろう時期を選んだ。
「そしてその時は、本当にこの匣を砕こうぜ」
その笑顔から、何もなく10年後にこれを取り出す未来を描いた山本の希望を感じた。

「獄寺は、埋めたいものないのか?」
山本が、雨の匣しか入っていない箱を寂しそうに眺めながら尋ねてきた。
「別に俺は…」
俺は、山本みたいに匣を持ち帰っていなかった。
フレイム・アローも瓜も、未来の俺がなんとかするだろうと思ったし、持ってくるなんて発想もなかった。
「なんだよ。じゃあけっきょく俺のものしかないのかあ」
山本がぼんやり呟いた。
でも、そのあと、またひらめいたように声を上げた。
「そうだ。じゃあ獄寺は手紙を書けよ」
「はあ?」突然の提案に、俺は間の抜けた声を出してしまった。
「だって、ふたりのタイム・カプセルなのに俺のものだけって淋しいじゃん」
「淋しくねえっ!」
俺は思わず声を荒げる。
「いつから俺とおまえのタイム・カプセルになったんだよ!」
「ええー、そんなつまんねーこと言うなよー」
山本は、もうぜったい変更しませんとばかりに頷いている。
冗談じゃない。タイム・カプセルってだけでも若干引いているのに、そのうえ手紙まで入れるなんて寒いにもほどがある。
「絶対にやだ!!」
「そうかよ。もういいよ」
山本が、あっさり引き下がった。
「じゃあ明日、ツナに協力してもらうから」
「じゅっ、じゅうだいめに!?」
俺は目を剥く。
「ふざけんな!なんで10代目にまでそんな迷惑かけようとすんだ!」
「ツナは迷惑なんて思わないぜ」山本が言ってのける。
確かに、ボンゴレ・リングを砕いた10代目なら協力されるかもしれないけど!
「10代目のお手を煩わせんじゃねえ!」
「じゃ、右腕の獄寺の仕事だな!」
山本が、確信犯的に笑った。
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