リクエスト小噺

□蒼く優しく
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「埋めるって…捨てるってのとはまた違うのかよ?」
どこかから菓子折りの箱を持ってきた山本に、俺は尋ねる。
「まさか。捨てないよ」山本が笑う。
「でもおまえ、匣がなけりゃいいって思ってるんだろ?10代目のお気持ちだって分かったんだろ?」
「そうだよ。だから、もうこれは未来の奴らには使わせない」
山本が、力強く言う。
「だったら…」
「でも、過去から来た奴には渡す」
「え?」
「ありえない話じゃないだろ」
山本が静かに言った。
「それが、未来を変えた俺たちができることだ」
何も入っていない箱に、山本は語りかけるように続けた。
「何かがあったとき、過去から来た丸腰の俺たちのために、これは置いといてやろうぜ」
「山本…」
「どこにあるのか忘れちゃうくらい、使わないのがベストだけど」
山本は、そう言って。
最後に「俺、さっきから矛盾したことばっかり言ってるな」呟いた。
「山本」
「本当は」山本が、言葉を切った。「見たくないだけなんだ」
山本は、さっきから俺の顔を見ていなかった。
「あんな未来、たくさんだ。そうならないように、頑張ったつもりだ。でも…」
もういちど、山本が匣をぐっと握った。
「それでも、そうなるかもしれないって、どうしても思ってしまうんだ、俺」
その握りすぎて白くなった指を、俺はずっと眺めていた。
「わかるぜ」
「え?」
「おまえの言いたいこと」
俺も、山本の顔を見ないで答えてやる。
「でも、俺たちは向かうしかないんだ」
「獄寺…」
「それが良かろうが、悪かろうが」
でも、もう、未来は変えてしまった。俺たちの手で。
そのことによって、俺たちのこれからの未来は、きっと、つい先日までの“予定”からは狂ってくる。
そのときの俺たちは、どうなっていると思う?
「俺たちが生きる限り、その未来は近づくんだ」
10年後の俺たちは、今と変わらずお互いを想いあっていられると思う?
「…そうだな」
山本が、空の箱に匣を置いた。
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