リクエスト小噺

□ANSWER
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「おい、あんまりくだんねえこと言ってると怒るぞ」
獄寺のその口調がもう、怒っている。
だから俺も、怒った顔をした。
俺にくだらないことを言わせる獄寺が悪い。
そう思っている俺に、追い討ちをかけるように「つきあってらんねえよ」獄寺が言い放つ。
そのとたん、激しい気持ちが喉まで駆け上がって。
「俺だって、もうつきあってらんない」
同じ威力を持つ言葉を選んだ。
獄寺は、チラリと俺を一瞥して、呟いた。
「せいせいするぜ」
その言葉の意味を、分かりかねて。
俺は、何も言えなかった。
つきあってられない。せいせいする。
このやりとりの行方は、どこにいくのだろう。
いちばん恐ろしい結果が頭に浮かんで、俺はもっと口を噤んだ。

そして獄寺は、そんな俺を見ることのないまま━━家に帰ってしまった。
小さくなっていく背中が、よけいに俺を怒らせて。
俺たちは、西部劇のように背を向け合った。

家に帰っても、俺は獄寺に連絡をしなかった。
いつもと同じように食事をとって、いつもと同じように風呂に入り、いつもと同じように布団に入った。
獄寺がいない、そんな日常を求めた。
もう、寝てしまおう。出かけた後だし、ぐっすり眠れる。
目をつぶって、そう暗示をかけたとき、電話が鳴った。
条件反射で起き上がってしまい、はっと思い直してまた布団を被った。
親父が電話をとって、そのまま話を続けている。
なんだ、やっぱり獄寺じゃないのか。
そう思って、胸がちくりと痛んだ。
なんで俺は、こんなに獄寺のことを考えるんだろう。
獄寺がいないとき、俺は何を考えていたんだろう。
そんな日常に、戻る準備をしなければならないのに。
暑い布団の中で、俺は獄寺がいなかった頃を思い出そうとしていた。

獄寺がいなかった頃。
ああ、その頃の俺は、野球ばっかりしていたな。
どれだけヒットを撃てるか、どうすればいい守備ができるか、いつも考えていた。
野球ができなければ死んでもいいとさえ考えていた、あの頃。
そうだ。
俺の優先事項だけを考えていられる、そんな贅沢な日々にまた戻れるんだ。
そんなことに気づいて、今までの時間が無駄にさえ思えた。

誰かを好きになるのは、つらい。
自分を見てくれない相手に存在を示すのは、本当につらい。
獄寺と知り合って、俺は痛感した。
でも、それはきっと、俺が獄寺を好きになりすぎたからだと思う。
俺は、いつも不安だった。
ひとの気持ちは、目に見えないけど。
だけど、獄寺を想う俺の気持ちと、俺を想う獄寺の気持ちを、天秤にかけたら、きっと俺の気持ちの方が重かったと思う。
獄寺が俺を好きでいてくれたって、分かっていたけど。
でも、俺はいつも、少しだけ余分に獄寺に片想いしていたと思う。
電話をするのも、俺から。
デートに誘うのも、俺から。
獄寺から何かをしてもらったことって、パッと思いつかない。
そのことに気づいて、俺は虚しくなった。
この恋は、俺の片想いで始まって、俺の片想いで終わってしまった。
獄寺に気持ちを押しつけて、自分の思ったとおりにならない結果に勝手に腹を立てた。
そんな、青い、幼い、恋だった。
そんな俺の一方的な想いを、獄寺はなんで受け入れたんだろう。
その謎が、頭の中で霧のように広がっていった。
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