リクエスト小噺

□アメあと
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「お邪魔しまあす」
律儀に挨拶する山本は置いて、俺はチェストからタオルを取り出した。
投げかけると、山本はあっさりキャッチして体を拭いた。
ベランダを開けると、案の定。
全部が、まるで洗濯したてのように濡れていた。
「まとめて洗うから、シャツ出せよ」
まだ玄関で体を拭いている山本に声をかけると「んー」脱ぎかけたシャツの中で、山本のくぐもった声がした。
その間も、俺は自分の服と山本の服を取りに走る。
部屋のクローゼットには、山本の着替えがかかっていた。
それをひったくって、玄関に戻ると
「そんなに急がなくてもいいのに」
上半身が裸の山本が、苦笑した。
「俺はいいから。獄寺も、濡れてるじゃん」
そう言った山本が、自分を拭いたタオルで俺の頭を拭きだした。
そして、そのまま、俺のシャツも脱がしていく。
「やま…」「まとめて、洗うんだろ?」
山本が、射るように俺を見つめた。
「風呂も、後でまとめて入ろうぜ」
そう言って、山本は俺の手をとって部屋まで歩いた。

リビングに、向かい合うように座らされて。
額に、軽くキスをされる。
部屋は、静かで、夕立も手伝って暗かった。
その静寂の中で、目蓋や頬に触れてくる山本の唇だけが濡れた音を立てた。
やがて首筋も軽く噛まれて、服の中にも手が滑り込んできた。
もともと雨に濡れて気持ち悪かったので、簡単に脱がされてやった。
体じゅうに、キスが降ってきて。
俺も、後を追うように山本に唇で触れた。

外では、先ほどよりも強く雨が降り出した。
雷が轟いて、電気も点けていない部屋に稲光が走る。
「ごくでら…」
時おり光る室内で、山本の貌が白く浮かび上がった。
俺の頬に添えられる手。青白い肌。潤んだ漆黒の瞳。
「獄寺…俺、こんな日はいつも獄寺のこと考えるよ」
山本が、躊躇うように口を開く。
「こんなふうに、雨が降る日」
「やまもと…?」
「嵐になるんじゃないかって、獄寺のこと考える」
山本が握った俺の手には、嵐のボンゴレ・リングが填まっていた。

そのとたん、俺の胸がぎゅうっと絞られて。
気がつけば、山本を抱き寄せてキスをしていた。
俺も。
俺も、同じことを考えていた。
俺も、同じことを考えている。
山本の、俺を抱く時の、潤んだ瞳、躊躇うような表情。
俺の瞳も表情も、山本の目に同じように映ればいいのに。
そう思うと、もう山本を離せなかった。
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