リクエスト小噺

□アメあと
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「獄寺!何してんだよ?」
目の前に現れた俺に、山本が差していたビニール傘を差し出す。
「帰る途中に降られた」
「ああ、さっき。すごかったよな」
山本が、俺の髪についた雨粒を軽く払った。
「俺も、部活から帰るところだったんだけど。あんまりすごいから、小降りになるのを学校で待ってたんだ」
言いながら、山本はカバンからタオルまで出して、俺の顔を拭う。
「あーあー、こんなに濡れて」
「…さみぃ」
「そりゃそうだ…え?」
山本が言い終わらないうちに、俺は山本に抱きついていた。
「ご…獄寺?」肩口で、山本が驚いている。
山本の首から、雨のボンゴレ・リングが提げられていた。

さっきまで、いろいろ考えていたことが、吹き飛んでしまった。
山本の顔を見たとたん、どうでもよくなってしまった。
ただ、山本に会いたかったのかもしれない。
野球を観ると思い出すし、寿司を見ても思い出す。
道端では表札にも目が留まるし、さっき10代目とした社会の宿題も教科書に載った合戦を見れば山本を思い出した。
そのときのように。
俺は、山本に会いたかったのかもしれない。

「…ご、ごくでら。その、俺…部活終わって汗くさいし、その…」
山本が、困っている。
そういえば、俺だって濡れた体で山本に触れている。
そのことに今さら気がついて、俺は体を離した。
「あ…あたたまった?」
山本が、傘を持ち直す。
でも、素直に頷くのは、照れくさくて。
「けっきょく濡れて温まんねーよ」
自分のせいなのに悪態をついた。山本が苦笑した。
だから
「…家まで送れよ」
「え?」
山本が、きょとんとしている。
「…それ!俺のせいで濡れてんだから責任とるっつってんだよ!俺んちで乾かせ!!」
濡れたシャツを指して、俺は捲くし立てた。
山本は、きょとんとしていたくせに、ぷっと吹き出して。
「ん、頼むわ。また降られないうちに急ごうぜ」
俺を、傘の中に引き込んだ。
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