リクエスト小噺

□近距離恋愛
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デイ・キャンプ当日は、とても天気が良かった。
暑すぎて、食べたカレーで汗が出るほどだった。
俺は皿を洗いながら、目の前で薪の片づけをしている獄寺とツナを盗み見た。
この食事の後片づけが終われば、レクリエーションが始まる。
それまでに適当に2人1組になっておくようにと先生に言われた。

レクリエーション。
先生のくちぶりだと、ふたりで行動するものみたいだ。
本当に、誰と組んでもいいのなら、
獄寺と組みたい。
でも、不自然に思われないかななんて自制が働く。
周りに変に思われることも抵抗があるけど、それより獄寺に変に思われたくなかった。
いつもの流れでいけば、獄寺はツナと組むだろう。
でも、俺がそう言えばふたりは本当にあっさり組みそうで、言いたくなかった。
それに、ツナだって本当は組みたい相手がいるんだ。
今の俺が獄寺を盗み見ているように、ツナが女子をチラチラ見ている。
それに協力すれば、ツナは獄寺と組まない?獄寺は、俺と組む気になる?
そんなことを言えば、それこそ獄寺に無理やり口実をつくったみたいで、ちょっとかっこ悪い。
すっかり洗い終わった食器を乾かしながら、俺はため息をついた。
獄寺に素直に言えない自分が、いちばんかっこ悪く思えた。
獄寺しかいらないのに、なんで俺はこんなに周りにも気を回しているんだろう。

そのとき
「沢田」
黒川が、ツナに近づいた。
「レクリエーション、あんたどうせ獄寺か山本と組むんでしょ」
「え…うん……」曖昧に頷いたツナに、黒川が含み笑いで持ちかけた。
「私、京子と組むんだけど、あんたたちと一緒に行動してあげる」
「えっ!」びっくりして声をあげたツナが、抱えていた薪をバラバラと落とす。
「あんたね、しっかりしなさいよ」
黒川が呆れたように薪を拾って、ツナに押しつける。
「その代わり、またあの牛柄の彼に会わせなさいよ。約束ね!」
ぶっきらぼうに言って、黒川がツナに背を向けた。
一部始終を見ていた俺は、黒川と目があって。
「おまえいい奴なのなあ」改めて、言うと
「取引したかっただけよ」黒川が、頬を赤くして「あんたも、あいつの親友のつもりならちょっとは気を利かせなさいよっ」乱暴に突っぱねた。
足早に女子の輪に戻っていく黒川を眺めて、俺は吹き出してしまう。
俺も協力してもらえばよかった、なんて思いながら。

「ツナ良かったじゃ
「沢田ちゃーん!!」
俺の声に、元気な声が被る。
「ぐえっ」
声の主は、勢いよくツナの首に抱きついて「ロ…ロンシャン!!」その名を呼ばれた。
「沢田ちゃん俺と組も!女のコと一緒に行動するんでしょ!?」
「それだけの理由で俺と組む気!?」ツナが白目むいてツッこむ。
「いいじゃん、それに沢田ちゃんたちっていつも3人でしょ?こーいう時、あぶれんのは沢田ちゃんなんだし」
「勝手に決めんな!!」
今度は獄寺もツナと一緒にツッこむ。
でも、ロンシャンのペースは変わらない。
「ってことで、今日は俺たちボスでコンビね!」
でっかい笑い声が、周りの注目を浴びる。ツナが、居心地悪そうに肩を落とした。

「ってことは…」
黙って見ていた俺の目が、獄寺を捕える。
でも、獄寺を見ていたのは俺だけじゃなかった。
獄寺とツナがペアを組めなくなったいきさつを見ていた女子たちが、獄寺に近寄ろうとしている。
これは…まずいかも?
「獄寺ッ」
俺も、ロンシャンのマネして獄寺にタックル。
「てッ」獄寺が声を上げて、俺がぶつかった腰を振り向く。
「ごくでらあ〜俺と組もう?な?な?」
後ろから抱き締めながら、俺は周りの女子を見渡した。
さすがに奪い返しにくる女子はいなくて、逆に苦笑された。
でかい図体の男が女の子相手に張り合うなんて、ほんとにみっともないけど「……しゃーねーな」獄寺がOKしてくれれば、大胆なことして良かったって思うんだ。
「言っとくけど、これは10代目の護衛だからなっ。ふたりっきりじゃねえぞっ」
釘をさしてくる獄寺の顔が、さっきの黒川の顔と重なった。
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