リクエスト小噺

□円満家族
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筍がもう旬を過ぎるのは本当のことで、親父が言っていたのも本当。
獄寺は、筍ごはんが好きだ。
前に俺の家で食べた時も、珍しくおかわりした。
普段はおとなっぽい見た目をしているけど、獄寺はものを食べているときだけ顔が少し幼くなる。
その顔が見たくて、俺はつい家に獄寺を誘ってしまう。

「ただいま」
「おう、おかえり武」
「よお」
部活上がりの俺が家に帰り着くと、カウンターを挟んで親父と獄寺がこっちを向いた。
「獄寺。もう来てたのか」
「わりと早くに来てくれたぜ」獄寺が答える前に、親父が口を挟む。
獄寺は親父に出された湯呑みに口をつけていた。
大きめの皿には、煎餅が2枚。本当に、けっこう長いこといたんだろうな。

「ずっとここにいてヒマじゃなかったか?」
「いや。剛と喋ってたから」獄寺がさらりと言う。
「? ツヨシって誰」
獄寺の口から聞いたことのない名前に、俺は本当に分からなかった。
「はあ?」「タケシおまえ父ちゃんの名前知らねぇのかっ」ふたりの呆れた顔に
「ええ━━━!!!」俺は絶叫してしまった。
つ…つよしって…。
俺の親父の名前が剛だってこと、いくら俺でももちろん知っている。
でもその親父を、獄寺が名前呼びしているなんて思いもしなかった。

「今じゃいろいろ話して、仲良しなんだぜ」
「剛はおとなのくせに、ハナシが分かるしな」
俺の前で、ふたりが「なあー」なんて笑いあっている。
俺は、突然の事態にどうしていいか分からなくて、ぼうっと突っ立っていた。
それを見て、またふたりが「早く着替えてこい」なんて同じ口調で言う。
やっと動いた俺の後ろでは、再び獄寺と親父の談笑が始まって。
俺はなんだか、自分の家に弟か兄貴のような家族がひとり増えたような気がした。
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