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□はぐるま
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「そろそろ店も忙しくなるから、親も上がってこねーぜ」
「邪魔なら帰る」
俺は応えたけど、なんだか疲れて起き上がれなかった。
「だ、か、ら、さー」山本のうざったい声も、なんだか疲れる。
「分かったって」帰り支度にコートを探すため部屋を見回すと
「違うって」ベッドにちょこんと座っている山本が、俺に両手を広げていた。
「…ひとりで降りろ」
俺は山本に近寄ることなく言い放つ。
山本が、ため息をついた。
「噛み合わないのなぁ」
「なにが」
「会話が」
確かに、このやりとりが噛み合わなさを表している。「知るか」

コートに袖を通し、本格的に立ち上がる。
「コタツ、まだ点けとくのか」
「帰るなよ」
山本の声に、俺は顔を上げた。
山本が、今度は両手を差し出している。
「こっち来いよ獄寺」
「え?」
「コタツ置いとくから」
「なに言ってんだよ?」
「ちゃんと痩せるから」
「山本?」
「だから、まだ……」
伸ばされた手が、布団を握り締める。
「おれのこと好きでいろ」
山本が、小さく言った。
「おれに興味もてよ…」

山本は、俯いたまま動かなくなって。
俺もやっぱり、動かずに山本を眺めていた。

噛み合わないなあ。
きょう何度、感じただろう。
今、この一瞬だって、優しい一言が出ればいいものを。

寒いし、炬燵は取り上げられるし、山本は誰にでもいい顔をする。
でも、そんなことで、俺がおまえを好きになることをやめられるわけないのに。興味を持たなくなるわけないのに。
山本に、ずっと好きでいてほしいのは、俺だ。
山本に、ずっと興味を持っていてほしいのは、俺だ。
そんなこと、おまえには、きっと伝わらないだろう。

俺は炬燵の電源を切ったけど、コートを脱いだ。
山本が載るベッドに上ったけど、もうひとつの鉄アレイはカーペットに下ろした。
「…ごくでら?」
「運動しようぜ」
布団を握り締めていた山本の指が、俺の服を握る。
「ごくでら。好きだ」
聞きたかった言葉が山本の唇から紡がれて、俺の耳を甘く侵す。

噛み合わなくなるのは、もうごめんだから、俺も山本の服に手をかける。
さっき抓んだ腹は、もう撫でてやることにした。
本当は、おまえの体型だってどうでもいい。
この運動が終わる頃には、それが伝わっていればいいと思いながら、俺は山本の肌に唇を寄せた。










おわり。次のページはあとがき→
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