リクエスト小噺

□チアノーゼ
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ここ数日、不思議なことばかり起きる。ツナの家族の赤ん坊がいなくなったと思ったら、入れ違いのように10年後の獄寺が現れて、俺の知っている獄寺やツナには会えないと言った。

とりあえず匿わせてほしいと未来の獄寺に言われた俺は、彼を今の獄寺の住まいに連れていった。本人も、実はそこに行きたかったんじゃないかとも思った。
獄寺は、家の合鍵を俺とツナにひとつずつ預けている。ひとつは、鍵を紛失した時に困るからツナに。もうひとつは、特別な関係になったのだからとせがんだ俺に内緒で。

「懐かしいな」
俺に案内された獄寺が、部屋の中をぐるりと見渡す。獄寺の家なのに、今は獄寺の方がこの家に慣れていないなんて変な感じだ。
「なに飲む?」俺は冷蔵庫を開けて「10年前の飲み物しかねーけど」いちおう尋ねた。
獄寺が吹き出して「じゃあ、腹を壊さなさそうなものを」注文したから、俺はウーロン茶を開けた。


座ってもなお落ち着かない様子の獄寺を、俺は台所越しに盗み見る。
10年後の獄寺は、俺より少しだけ背が高かった。葬式にでも行くみたいな黒い服に身を包み、銀色の髪は相変わらず綺麗だった。透明感を増した肌と相まって、今よりも外国人ぽく見える風貌だ。
「10年後って、みんなどうなってんの?」
獄寺にウーロン茶を手渡しながら、尋ねてみた。
でも獄寺は「今は話せる状況じゃない」と申し訳なさそうに言った。
そうだよな、急に10年前にきて混乱するよな。俺はそんなくらいに考えていた。だから元気づけようとした。「早く戻れるといいな」
でも獄寺は表情を変えなかった。
「獄寺?」
「……いつ戻れるか分かんねー」
「え?」
「今だって…きっちり10年前じゃねぇし…」
獄寺が部屋のカレンダーを見つめた。

「そういうもんなんだ?」俺が聞くと「俺にも分からない」獄寺が答えた。
あんまり話題にしたくないのかな。表情を曇らせる獄寺を見て、そう思った。
だから、もう聞くのはやめた。
けっこう疲れているのかな。眠たそうな瞳と血色の薄い肌を見て、そう思った。
だから、沈黙が獄寺を眠りの世界に落としても、起こさなかった。

眠っている間は、獄寺をじっくり見ることができて、ちょっと嬉しかった。
綺麗だな、と単純に思った。滑らかな彫刻みたいだった。

ああ、きっと。10年たっても、俺は、獄寺の傍で、獄寺を好きでいる。
そう言い聞かされているような気がした。
それくらい、獄寺の貌は説得力があった。

だから、俺は抗えなかった。
目覚めて、淋しそうな顔をした獄寺と、一緒にいたいと思ってしまったんだ━━。
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