リクエスト小噺

□ゴールデン・サマー
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人間そろそろ歳をとると、他人のなんでもない仕草や言葉の裏まで確かめようとしてしまう。
マフィアの身としては合格なのだろうが、ひとりの人間としては少し情けない。
反坑期バリバリだった幼い頃に比べだいぶ丸くなったが、それは世の中の仕組みや人間の業をつかめるようになったからだ。
だが、それなのに器用に立ち回ることができない自分が、あの頃よりも無力に思えることがある。


「いい式だったよなぁ」
帰り道、隣の山本が自分のことのように漏らした。
俺は答えてやらない。

最近もっぱら憂鬱なことは、結婚式だ。
適当な奴なら欠席するのだが、ファミリーの人間が主役となれば出席は強制的なものだ。以前だって、大嫌いな姉の結婚式に参列した。
今日の挙式の顔は、ファミリーの中でもよく見知った男だった。俺たちと同じ歳で、10代目や山本なんかと一緒にいるとその場が教室でもあるような気さえした。

結婚式が嫌なわけではない。
こんな俺でも、他人のことながら幸福を分けてもらった気がするし、目が潤まないように踏ん張ってしまったりする。
ただ、その後が嫌なのだ。
周囲の人間に、おまえはまだなのか、将来を決めた相手はいないのかと矢継ぎ早に声をかけられる。
今はそんな時期じゃないんだと躱すと、この間も同じことを言ってたぜと返された。

結婚。
俺が今まで、本気になって将来のことを考えた相手は、ひとりだけだった。
でもそれは、夢をみるようなものではなく、悩まされるといったものに近い。
なぜなら、その相手は、俺と同じ男だからだ。

「あ、獄寺。ここ」
歩いていると、地元ではあるがあまり立ち寄らない草むらの前を通った。確か、その奥には川が流れていたっけ。
立ち止まった山本につられ、俺も足を止める。山本が、まだ結婚式の余韻を引きずった嬉しそうな顔で口を開いた。
「ここ、覚えてる?」
「はあ?」
山本の質問は明らかに、この草むらにまつわる俺たちの何かを思い出させようとしたものだった。
回りくどい言い方しやがって。なんで立ち止まったのか、ちゃんとはっきり言いやがれ。
同じく結婚式の余韻を引きずっていた俺は、八つ当たり気味な声をあげる。
「知らねえよ」
「なんだよ」残念そうに肩を竦めて、山本が草むらの中へと押し入っていく。
「おい」気持ち悪いからやめろよ置いてくぞと言った言葉は聞こえたのだろうか。山本が手招きした。
聞こえよがしにため息をついて後に続くと、微かな光が、俺の目の前で漂った。










ゴールデン・サマー
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