リクエスト小噺

□ゴールデン・サマー
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いつも、山本との将来を考えると、苦しくなる。
だって、法が許さない相手を好きになった俺たちは、道に背いている。
そんな俺たちが手にすることができる“幸福”はどんなものだろう。俺は未だに見つけられない。
おまえしか知らない俺が、俺しか知らないおまえが、選んだ相手がベストだって較べられるものもない。
そのくせ、他人を選ぶ度胸もない、目にも入らない。
そのなかで。
ぜんぶ手づまりの闇のなかで、俺を想ってくれる山本の気持ちだけが、ただ一筋の光となっている。
その光はとても、確かで、強くて。
俺は反射せずにはいられない。おまえが与えてくれた大切なものを、そっくりそのまま返してやりたいと思う。
でもいつもうまくいかなくて、こんなふうに山本を喜ばせてやれない。
こんな俺なのに。「なんで俺なんだよ」
ひねくれ者で、癇癪持ちで、理論武装で身を固めているのに。「なんで俺なんだよ」

「なんでって…大事だから、かなあ」
山本が笑うのをやめた。
「今日の結婚式、あいつすげー幸せそうに笑ってただろ。おれ獄寺にもあんな顔させたいよ」
山本が、このうえなく愛しそうに俺を見つめた。
「だから、獄寺」
「………」
「俺と一緒に幸せになろう」
何か言わないと。そう思うのに、胸がいっぱいで言葉が出てこない。
いちど頷くだけで精いっぱいだった。
そんな俺を、山本はぎゅうっと抱き締めた。「よかった」

諦めていたのに。俺たちが一緒になることは一生ないと思っていたのに。
それでも俺は、夢の続きを追いかけずにはいられない。
好きだ。俺だって、山本が好きでたまらない。
たったひとりの人間を、こんなに大切に、強く想ったことなんかない。
俺も、山本の背に腕を廻した。

しんとした夜の静寂。
頬を撫でる夜風。
満天の星空を落としたように、ホタルが輝きを灯す。

すると、突然。「あ」山本が声を上げて。
俺を胸に預けたまま、両手でホタルを捕まえた。
「獄寺。手、広げて」
山本の両手の中で、仄かな光が放たれる。
言われるがまま、でもホタルを置きやすいように、両手で受け皿をつくってやると、山本は首を横に振った。「違う、掌を下に」
ひっくり返した手に、山本の両手がゆっくり重なる。「動くなよ…」
やがて山本の両手が離れて、ホタルが俺の手に落ち着いた。じょうずに、左手の薬指の付け根に━━。
「山本…おまえ…」
その光は、結婚式のために華美な装飾を避けた俺の殺風景な指に、とても映えた。

「指輪は、こんど用意するから」
山本が照れ臭そうに笑う。
役割を分かっているのか、ホタルは俺の薬指から動かずに、光と闇を操っていた。
そのとたん、俺の胸がぎゅうっと絞られて、溜まっていたものが瞳から溢れた。

「獄寺」
俺の頬を拭う山本も、瞳を潤ませている。それはとても、愛しさに満ちた瞳だった。

唇が震えて、うまく言葉にならない。
もっとたくさんの言葉で、この気持ちを伝えたいのに。
俺なんか、もう全然敵わない。
でも、いつかきっと、山本に追いつくから。
大好きな指。大好きな笑顔。
俺の幸福は、きっと山本の笑顔なんだ。
その気持ちが伝わるように、俺は山本の手を握った。
黄金の輝きを載せた左手で━━。
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