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週にいちど、あるかないか。
10代目が笹川と帰ることがある。
「京子ちゃんに誘われたんだ」
「じゃあ今日は俺、外しますね」
放課後になって、照れ臭そうな顔の10代目に、俺は笑顔で応える。
「でも気をつけてくださいね。10代目のお命を狙ってる奴はたくさんいますから」
「やめてよそんな不吉こと言うの!」
10代目が、信じたくないかのように首を横に振る。
それを見て、山本が笑った。
「獄寺はいつもマフィア気分なのなー」
「まあな」絡んでくるなよ鬱陶しい。おまえなんか適当に流してやる。
「あ、でも今日は、山本と獄寺くんは遊ぶんだよね?」
タイミングがよかったのかなと10代目が笑った時「あぁ…」山本が、首に巻いたマフラーの端で口許を隠した。
「おれ部活あるし」
「山本?」
「部活のあと遊ぶの疲れるから、獄寺の名前出しちゃった」
「えっそうなの!?」10代目が声を上げる。「でも、それくらい正直に断ってもよかったんじゃない?」
「んー…でも、疲れるから遊ばないって、言いにくくね?」
山本が申し訳なさそうにこちらを見たから、思いっきり顔を背けてやった。
俺を利用することには罪悪感は沸かないんだな、おまえ。
ちょうどそっぽを向いた先に、笹川と視線が合う。
「10代目。待ってますよ笹川」
「あっほんとだっ」10代目が鞄を持ち直す。「じゃあ、また明日ね2人とも」
「はい」「おう」俺たちの返事を背に、10代目が駆けていった。
弾けるような笑顔を見せあって、ふたりは教室を後にする。

「いいなあツナ」山本が呟く。
「おまえ部活行けよ」
「うん…」
追い出すように言い放った俺に、山本がまた申し訳なさそうな視線を向ける。
「今日、俺んちでメシ食えば?」
「部活の後は疲れてるんだろ?人気者」
嫌味たっぷりな言葉が、山本に向けたのに俺にも突き刺さった気がした。
こんな自分、俺だって嫌だ。うんざりする。
でも、イライラさせるおまえも悪い。俺の視界に入ってくるな。

「あした15日だろ。俺、たぶん英語とか数学とか当たりそうなんだ。だから今日にでも教えてほしかったんだけど」
「……ノート貸すだけだ。教えてやんねー」
俺は鞄からノートを引っ張り出す。
「自分で考えないから理解できないんだおまえは」
もっともそうな理由をつけたけど、もちろん本心はそこにない。
「どうしても分からなかったら、電話で聞いていい?」
「明日にしろ」
俺は言いながら教室を出る。
「あ、待てよ獄寺、そうだこれ」
山本の言葉に振り返ると同時に、
ふわり、と首が暖かくなった。
「ノートの、お礼」
山本が、自分のマフラーを俺に結わえつける。
「今日は風が強いから」
「いらねぇ…
「じゃあなっ」
俺がマフラーを返す前に、山本が走り去っていった。

ため息が漏れて、また首がじんわりと熱くなった。
優しくしたり、利用したり。
あいつが俺のことをどう思っているのか、分からない。
もう、俺を振り回さないでくれ。
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