リクエスト小噺

□一輪の花
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「成人式は出席する?」
20歳の正月、イタリアから一時帰国した10代目とお会いした。
初詣をした後、俺たちは近くの喫茶店で休憩をする。

「ああ…10代目、そのために帰ってこられたんですか?」
イタリアにはそんな行事はないのに、日本でのそれを覚えていたことに、俺は吹き出してしまう。
すでに住所をイタリアに移している10代目には、成人式の招待状は届いていないはずなのに。
「いや、俺も忘れてたんだけどさ」
10代目も、俺につられて笑いながら続けた。
「京子やおにいさんが、せっかくだからって声をかけてくれたんだ」
「ああ、そういえばハルのやつも振袖買ったって、イギリスから画像を送りつけてきましたよ」
「俺のところにもきた。成人式まで待ちきれずに留学先で着ちゃうのが、ハルらしいよね」
10代目が少年のような表情をする。
「だから、招待状がないから式には出られないけど、その後の会費制の懇親会には行こうかなと思って。山本とも相談してるんだ」
「あ、じゃあ成人式は俺の招待状を差し上げますよ。俺、そのあたりに仕事が入ってるんで」
俺が提案すると、10代目が笑う。
「替え玉で成人式に出るってこと?バレないかなあ」
「ダメですかね」
「もめたら面倒臭いから、やめとくよ」
「そうですか」
「仕事、どこに行くんだったっけ」
「どこだったかな。ヨーロッパなんですけど」
「…このあいだの夏休みも、その前の春も、ヨーロッパ辺りで仕事が入ってたよね」
「……バカンス・シーズンだから、向こうの奴らも気がゆるむんでしょう」
真横に10代目がいるのに、俺は正面を向いて答える。
きっと10代目は、そんな指示はしていないという顔をしているだろう。
まだ学生の俺には仕事があまり入らないように部下に調整させ、山本に至ってはいくつになっても野球に専念できるようボンゴレを解雇したくらいだから。
そこまで配慮される10代目だから、きっと仰らないだろう。
いつになったら山本に会う気なんだと。
“山本”というキー・ワードは、いつも俺たちをぎくしゃくとさせるのに。
10代目は、さりげなく使うことがある。そして俺も、さりげなく躱すのだ。

おそらく10代目は、俺と山本の関係を以前のものに戻したいのだろう。
だけど、当事者の俺には、もうその気はなかった。
山本は、住所こそ変えたようだが、たまに並盛に帰ってくる。
何度か連絡がきたが、俺とは高校の卒業式以来、一度も会っていない。
なぜかというと簡単で、会う意味がなくなったからだ。
会った時に、過去のことを掘り出されるのも面倒で、気も進まなかった。
俺は、山本がいない生活に慣れていた。
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