リクエスト小噺

□貴方なしでは
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この1週間ほど、海外で仕事をしていた。
飛行機でアジトに近い場所に戻ったが、もちろん直帰はしない。
仕事は、上司に報告をするまでが仕事なのだ。

「ただいま戻りました」
重いスーツ・ケースをガラガラと引きずって、俺は廊下から10代目に声をかける。
「おつかれさま獄寺くん!入って!!」
いつもはご自分で扉を開けてくださる10代目が、部屋の中から大きな声を上げた。
俺はスーツ・ケースを廊下に置き、部屋に入る。

「よお」
まず俺に声をかけたのは、10代目ではなく。
10代目が淹れるコーヒーを嬉しそうに眺めている山本だった。
「ごめんねー獄寺くん。いま手が離せなくって。山本、獄寺くんの分もカップ出してあげて?」
「オッケー」
山本が楽しそうに立ち上がって、食器棚に向かう。
俺はそれを見て、どっと疲れが出た気がした。
いくら中学生からの親友とはいえ、職場でスーツを着た上司に茶を淹れさせるか。
外交を勉強しないこいつの代わりに外国に向かうことが多くなった俺は、自分の身が本当に情けなくなってくる。
「はい、獄寺。おつかれさまです」
山本が、うやうやしく両手でソーサーを差し出す。
「…………」だから、俺はわざと「10代目、いただきます」と頭を下げた。










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