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□このままでいよう
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このままでいよう










早くおとなになりたい俺にとって、物理的に誕生日は嬉しい。
でも、誕生日が嬉しいと言うのはこどもっぽい気がするから公言しない。


今年の俺の誕生日は日曜日だ。
外はいい具合に晴れて、絶好の洗濯日和。
俺は洗濯機を動かして、掃除機も従えた。
昼過ぎに、山本が家に来る。
せっかくだし、食事も用意しよう。
誕生日というだけでなんでもできる気になれるからすごい。

山本が来そうな1時過ぎ。
炊飯機の音が鳴った時、重なるように携帯電話の着信音が鳴り響いた。
ディスプレイには山本の名前。
「はい?」
「獄寺。誕生日おめでとう!」
電話口で、山本が真っ先に告げた。
「…おう」
歳はひとつとったものの、ぶっきらぼうなところは直せない。
「もう来るのか」
「う━━…ちょっと、な…」
珍しく、山本が歯切れ悪い返事をする。
「山本?」
「〜〜っ、ほんっとごめん獄寺! おまえんち着くの、ちょっと遅れそう」
「え?」
「実は、今から行くとこあって…」
「今どこだよ?」
「……家…」山本は携帯電話を持っていない。
「……分かった」
俺はあっさりと引き下がった。
「ごくでら」
「あ、メシ食ってこいよ。おまえの分ないから」
「分かった。じゃ」
山本は手短に返事をして電話を切った。
その音を聞いて、俺も通話ボタンを押した。
出していた食器を半分片づけた。

結局、ひとりじゃ料理をする気にもなれず。
炊きたての米を、ふりかけで食べた。
テレビの音がやけに響いて、逆に、自分がひとりであることを浮き彫りにされた気がした。
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