リクエスト小噺

□Crazy for You
1ページ/8ページ

Crazy for You










イタリアに戻っていた獄寺が、帰国した。
もう2週間は会っていない。
帰ってきたら連絡するという約束通り、
獄寺からかかってきた電話の奥で騒々しいノイズが聞こえた。
外国語の行き交うそれは、きっと空港でかけたものだろう。

俺は電話を切るとすぐ獄寺の家に行く準備を始めてしまった。
空港を出発した獄寺と、家を出た俺では、俺の方が先に獄寺の家に着いてしまう。
そのことに気づいたのは、獄寺の家まで走り込んでからだった。
「あ、そっか」
そんなことはないと思うものの、呼び鈴を鳴らしたり。
獄寺の家の前で、うろうろしたり。
それでも、獄寺はなかなか帰ってこなくて。
俺は、迷子になった子供みたいに、獄寺家の前で座って主の帰りを待っていた。
俺は、獄寺の家の鍵を持っていない。
だから、こういう場合は、外で待つしかないんだ。

「あつい」
言葉にすると、もっと暑くなった気がした。
もう、どれくらい待っているだろう。
きっと、自分が思っているほど長く待ってはいないだろうけど。
こういう時って、すごく長いあいだ待っている気がする。
2週間は開けられていない扉に凭れて、俺は目を閉じた。

獄寺が、帰ってきて。
この扉を開けたら、ものすごく熱いんだろうな。
2週間も空けてないし、こもった臭いもしてそう。
まず獄寺が帰ってきたら、全部の窓を開けよう。
外の空気が入って、暑いだろうけど、もう仕方ない。

それにしても。
暑くて。
「…アイス食べたい」
また、そう声に出したら、そんな気になる。
でも、どうせ獄寺んちの中もしばらくは暑いし。
その間、ふたりで食べるのも悪くない。
「ちょっと待ってて」
待ってるのは俺だけど、そう言って獄寺の家を離れた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ