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□inside
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入室した途端に聞こえる、シャワーの音。
ひとつしかない大きなベッドには、枕がふたつ。
小さなテーブルの上には、コンドームが盛られたバスケット。
全てが生々しくて、俺はカーペットにへたり込んだ。





inside





体を石鹸で洗い流しながら、いろんなことがぐるぐる頭をよぎる。
なんでこうなったんだっけとか、
これからどうなるんだろうとか、
今となってはもう、なるようにしかならないこと。

発端は、あれだ。ふたりで読んだ雑誌。
暖かくなったし来週末なんかに遠出しようって話になって、行くとこ探すために買った雑誌。
その中に“ラブホ特集”なんてのを見つけちまって。
お互い、気になってしまって、
行ってみようって話になったんだっけ。

でも、これは“行ってみよう”じゃねぇな。“使ってみよう”だな。
俺としては、正直なところ興味本位だったので、偵察ぐらいにしか考えてなかった。
それで盛り上がってしまったら、使うのもアリかな、ぐらいに。
でも、山本は違ったみたいだ。
入室した途端「シャワー浴びるから」って、ハナからその気だったんじゃねえか。
今まで、事前にシャワーなんて使ったことねえくせに。

シャワーのコックを戻し、俺は体を拭く。
ちょっと湿ったタオル。山本が先に使ったからだ。
そう思って、体がかっと熱くなった。
━━やばい。いたたまれない。
今さらだけど、逃げ出したい。

浴室から出ると、すぐ傍のベッドに山本が腰かけていた。
綿パンこそ穿いているが、上半身には何も身につけていない。
俺に気づくと「はいこれ」ぶっきらぼうに携帯電話を差し出す。
山本に貸していたのは、時間差で追う俺が部屋の番号を教えてもらうためだ。さすがに一緒には入りづらいから。

改めて、簡素なその部屋をぐるりと見渡す。
ビジネスホテルといっても納得できるくらい、ラブホテルにしては色気が足りない。
「えらいまともな部屋えらんだな」
誰もいないカウンターにはいろんな部屋の内装がパネリングされていて、その中にはいかにもな雰囲気の部屋だってあった。
こいつのことだから、せっかくの機会を楽しむかと思った。
「…だって、あからさまなのは獄寺イヤだろ」
「………」別にいいのに、そんなこと。山本の物言いに、ムッとしてしまう。
俺のせいで妥協したのかよ。
膨れた俺の頬に、山本の両手が宛てがわれる。
唇に、柔らかい感触が降りて。
「……時間、ないから…」
山本の逸る声を合図に、俺はダブルベッドの上に押し倒された。
肚をくくれたのか、自分でも驚くほど冷静だった。
システムや防音構造など大まかなことは、シャマルから聞いていた予備知識があったからかもしれない。
セックスのために用意された部屋で、俺たちは今からセックスをする。
そんな淡々とした気持ちで、瞳を開けた時━━
「ぎゃ━━━!!!」
俺ははじめて、鏡貼りの天井に気がついた。
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